バスルームでは丸裸





 食事の片付けを終えて、彼女を探せばどこにも見当たらなかった。ナミさんに彼女の居場所を訪ねれば、風呂に入っているとのこと。これは都合が良い、とおれはバスルームへと足を早めた。風呂に浸かっていれば、隠すことは出来ないはずだ。
 ノックもなしにバスルームのドアを開ければ、浴槽に体を沈めかけていた彼女が驚きながら慌てて体を湯船へとつけた。靴を脱いだだけで靴下を脱ぐことを忘れたおれの足は湿って気分が悪い。けれどそれよりもっと、おれの気分を悪くするものがある。彼女に近付くおれに、おれから離れるように浴槽の奥へと行く彼女。逃がすまいと彼女の肩を掴めば、ばしゃりと水が跳ねスーツの袖が生ぬるく濡れた。恥ずかしがるというよりは怯えた色を瞳に映す彼女に、おれは確信を深める。彼女の白い肩を撫でるように下へ這い、二の腕を掴めば彼女の眉間に皺が寄る。

「おれに隠せると思ってる?」

 掴んだ彼女の腕をそっと上げれば、白い肌に浮かぶ青色の手の跡。それは力強く握られたせいで出来たものだろう。彼女は繕うように笑った。

「隠してたわけじゃないよ。怪我したわけじゃないし、ちょっと掴まれただけだから」

 どこかほっとしたように話す彼女だったが、おれに隠しておけるだなんて、本当に思っているのだろうか?
 痛い思いをさせたくはなかったが、そのまま掴んだ彼女の二の腕に力を入れて、体を引き上げた。一瞬痛みに顔を歪めた彼女だったけれど、すぐに慌てたように体に力を入れる。持ち上げられた体を再び浴槽に沈めようとする彼女より先に、腰を掴んでそれを止める。おれの視線に映るのは、先ほど見た二の腕に浮かぶ青よりも濃く大きな、青。

「ねぇ、おれに隠せると本当に思ってる?」

 もう一度問うおれに、くしゃりと顔を歪める彼女。掴んだ二の腕とは反対側の腹部は、蹴られたのであろう、二の腕と同様に青色に染まり、若干腫れていた。その青を、優しく撫でればびくりと揺れる彼女の体。

「チョッパーに…聞いたの?」
「いいや。どうせチョッパーに口止めしたんだろ?聞けばチョッパーが言うか言わまいか迷って可哀想だろ」
「…聞いてないのに、どうして分かったの」
「どうしておれが知らないとでも?」
「だって…そばにいなかったでしょ」

 あぁ、それだ。おれは彼女のそばにいてやれなかった。彼女が体に傷をつけてしまうその瞬間を、遠くで見ていることしか出来ずに、守ってやることが出来なかった。それが、おれの気分を悪くさせる理由。
 彼女はおれを責めるためにそんなことを言っているのではなく、ただそのままの意味で、そばにいなくて見ていないはずなのに何故と問いたかったのだろう。
 傷もなく、痛みなどないはずのおれが顔を歪め彼女の腹部を優しく撫でる。こうして撫でていけば、彼女の青色も痛みも、おれの手のひらに吸い込まれていけば良いのに。

「チョッパーに看てもらってんなら、折れたりはしてねェんだな」
「うん、打撲だって。薬塗っておけば大丈夫みたい」

 撫でていたおれの手を取り、彼女は苦笑いを漏らす。

「そんな顔しないで。弱い私が悪いの」
「違う」
「どうして?私も海賊、自分の身は自分で守らなきゃ」
「違う、おれが」
「やめて」

 濡れた手でおれの口を塞いだ彼女は、もう一度「やめて」と呟いた。もう彼女の二の腕を掴む手に力は入れていないのに、彼女は痛そうに顔を歪めた。

「だから隠したの、サンジがそんな顔するの見たくないから」

 口を開こうとするおれを遮るように、彼女は俺の口に当てた手を離さなかった。

「私の傷は、私の責任。私が海賊なのは、私の意志。だからこの傷は私のもの、サンジはどこも痛くないし責める必要もないの」

 笑う彼女を、おれは引き寄せ抱きしめた。
 それでも君は、おれのものだろう。君の傷に胸を痛め、自分を責める権利がおれにはあるはずだ。
 じわり、じわりと濡れていくスーツがひどく邪魔だった。おれも彼女のように裸だったなら、口を開かずとも少しはこの想いが彼女に伝わったのではと思ったが、そんな必要などなくおれの鼓膜は優しく震えた。

「ありがとう」

 彼女には、おれの気持ちが伝わっていたのだ。おれは彼女を強く抱きしめて瞼を下ろした。

 強い君に、おれは時々情けなくなってしまう。だから精一杯に、君の柔らかなからだを、すべてを、守らせて。






20110324
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