キミの手の中で光る





 夜、22時を過ぎた頃に千鶴からの電話があった。何だろうと思って携帯を耳に当てれば、聞こえてきたのは祐希の声。

『もしもし』
「あれ、祐希?」
『千鶴だよ』
「え?祐希でしょ」
『千鶴だよー』
『ゆっきー!オレもっとキレがあるから!格好良く喋るから!』
『バカッぽく、の間違いだろ』

 確かに祐希の声なのに千鶴だと言い張る祐希に、その後ろで騒ぐ千鶴と冷静な要の声がした。
 明日も学校だっていうのに、こんな時間に集まって何してるんだろ。きっと後ろには悠太と春もいるんだろうなぁ。
 3人が一通り騒ぎ終わるのを待っていれば『今から出て来れる?』と祐希が何事もなかったかのように言った。

 言われた通り外に出てみれば、予想通り全員が勢揃いしていた。一体どうしたのかと思えば悠太が「千鶴がホタル見たんだって」と教えてくれた。

「ホタル?この辺で?」
「そう!さっきコンビニ行った帰りに公園で見たのよオレ!」
「いねぇよ、こんな所にホタルなんか」
「水が綺麗な場所にいるって言いますもんね」
「春ちゃんまでー!ほんとに緑の光見たんだって!行ってみりゃ分かるから、ホラ行くぞ!」

 千鶴は唇を尖らせて、祐希の肩を組んで歩きだした。身長が合わなくて腰を折る祐希は歩きづらそうにしている。

「ちょっと千鶴さん、この体勢キツいんですけど」
「なーにちょっと自分の方がおっきいからって!」
「ちょっとじゃないよね、オレの腰90度くらい曲がってるもん」
「そんなに曲がってねーだろ!」

 夜でも昼でも同じテンションの千鶴は、夜に見ると一層にうるさく感じる。

「もう遅い時間ですし、あんまり騒いだらご近所迷惑になりますよ」

 前を歩く千鶴と祐希に慌てて近寄る春を見ながら、夜だろうと昼だろうと、この5人は本当に変わらないなぁと思った。

「こんな遅くに出てきて平気だったの?」
「うん、ちょっとコンビニって言って来た」
「ちょっとで済めばいいけどな」
「まぁ、1時間は確実だよね」

 前にいる賑やかな3人を見守るように、悠太と要の私達3人は歩いていた。





「で、どこで見たんだよ?」

 公園に着いたはいいけれど、外灯がぽつりぽつりと点いている以外に特に光は見当たらない。そもそも、この公園に川辺も水場もない。そんな所で、ホタルが本当にいるのだろうか。
 きっと千鶴の見間違いなんだろうなぁ、と思いながら私は公園を見渡した。
 いつも子供たちが楽しく遊んでいる公園なのに、夜になるとどうして不気味に見えるんだろう。見慣れた場所なのに、うす暗く所々で外灯が照らす公園に鳥肌までは立たないものの私は思わず肌を撫でた。

「夜の公園って昼間と雰囲気変わるよね」
「あ、うん」

 ホタルを探すように公園を見渡していたせいで、歩いていた時よりもみんなバラバラになっていた。その空いていた距離を、悠太はいつの間にかつめて私の隣でそう呟いた。みんなの声も姿もあるものの、ひとりぽつんと立っているような感覚が怖かった私は隣にいる悠太の存在にほっとしつつ、自分が思っていたことを口にされて驚いた。
 私が少し怖がっていたことに気付いて、声をかけてくれたのかな。

「こっちこっち!」

 千鶴の叫ぶ声がした。

「千鶴はいつでも変わらないよね」

 そう言う悠太に笑って答えて、私達は千鶴の呼ぶ方へ向かった。





「お前のバカさ加減も、ここまで来ると逆にすげぇな」

 見つけたホタルを見て、私達は呆然としていた。確かに、これに引き寄せられた千鶴はすごいと思う。
 私達が見つめる先には、木にぶら下げられている緑色に光る虫の形をしたキーホルダー。そのキーホルダーには”バーカ”と書かれた紙が貼ってあった。これはきっと、ホタルだと勘違いした人間をおちょくるために、わざと仕掛けられたものなんだろう。
 千鶴はそれに、まんまとハマったというわけだ。

「誰だこんなことしたやつー!!」
「字から見るに小学生とかだよね」
「クソガキめ…!」
「そのクソガキにハメられたクソバカはどいつだよ」

 光る虫のキーホルダーを握りしめながら怒る千鶴に、字を見て小さく噴き出す口元を押さえながら祐希が呟いた。いつもの倍の勢いでバカにしている要に、千鶴が悔しそうに叫んでいる。そのままいつもの言い合いが始まり、結局また春が止めに入っていた。
 いないとは思っていたけど、ちょっと見てみたかったんだけどなぁ、ホタル。
 心の中で残念に思っていると、急に右手が握られて私は驚いた。

「どうしたの悠…あれ、祐希?」
「今悠太って言いかけたでしょ」
「だって、さっきまでここにいたの悠太だもん」
「ゆーたはあっち」
「あれ、いつの間に」

 祐希もだけど。瞬きをするその一瞬の前には、私の隣には悠太がいて、目の先には祐希がいたと思ったのに。いつの間にふたりは入れ替わったんだろう。
 少し驚いていると、祐希は私の耳元で小さく囁いた。

「ホタル、あっちにいたよ」
「えっ」

 声を上げた私に口元に人差し指を立てて、祐希は私の手を引いた。
 みんなから少し離れた場所まで来て、立ち止まる。けれどそこは先ほどいた場所と変わらない芝の上で、水辺もホタルの気配もない。

「ほんとにいたの?」
「うん、これ」

 そう言って、祐希は私の手を握っていない方の手を開いて見せた。手の上には、先ほどまで木にぶらさがっていた緑に光る虫のキーホルダーがあった。

「……バーカって書いてありますが」
「うん、オレの気持ち」
「え?」

 握られていた手に力を込められて、私は瞬きをした。
 先ほどまで騒がしく聞こえていた千鶴たちの声が、今は遠くに聞こえる。少し離れただけなのに、公園の静けさにつつまれてふたりだけの空間のようだった。握りあった手が、私も祐希も熱い。

 あぁ、そうか。

 私は祐希の手のひらに自分の手を重ねて、緑色に光るキーホルダーを隠した。

「私も同じ気持ち」

 騒がしい声が私達を探してここに来るまで、こうしていよう。何をしていたと聞かれたら、ホタルがいたよと答えて、そうして二人の手の中を見せてあげる。

 だから、それまでは──────。






20120802
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