君が喜ぶプレゼント








「ありがとう〜!嬉しいっス〜!」

 黄瀬くんのお誕生日の数日後。
 僕と青峰くんと黄瀬くんの3人は、青峰くんが行きたがっていたアメリカンダイナーに来ていた。黄瀬くんにお誕生日プレゼントを渡す予定なのだから、黄瀬くんが好きなお店に行きましょうという僕の提案も青峰くんの「あいつはどこでもいいんだよ」という言葉に一蹴され、当の本人も「二人の行きたい店でいいっスよ」と青峰くんの言った通りの返事をした。
 そうして青峰くんの食べたがっていた大きなハンバーガーを黄瀬くんが食べ終えた頃を見計らい、向かいの席に座る黄瀬くんにプレゼントを渡すと彼は嬉しそうに手を伸ばした。
 青峰くんはそんな僕たちのやりとりを気にする素振りも見せず、おかわりをした2つめの大きなハンバーガーにかぶりついていた。

「開けていいっスか?」
「どうぞ、気に入ってもらえると良いんですが」
「黒子っちが選んでくれたものなら何でも嬉しいっスよ」
「今日の君はいつも以上にご機嫌ですね。さんにお祝いしてもらったお誕生日、楽しかったんですか?」
「そうなんスよ〜。あれからもう、オレずっとニヤニヤしちゃって」
「誕生日祝ってもらったくらいで何日もニヤニヤしてるとかキモい奴だなお前」
「この幸せな気持ちが分かんないなんて、青峰っちはカワイソウな男っスねぇ」

 いつもなら青峰くんのそんな物言いに食ってかかる黄瀬くんが、今は余裕すら感じられる微笑みで返事をしている。
 どうやらさんから祝ってもらったお誕生日が相当嬉しかったらしい。
 黄瀬くんのお誕生日の数ヶ月前からどうしようと悩んでいたさんからの相談を受けていた僕としても、二人が楽しい6月18日を過ごせたようで嬉しかった。

「おっ、デンタルケアセットっスか?」
「はい、トラベルセットで色々入ってるやつなんですけど」
「ここのブランド気になってたんスよね。めちゃくちゃ嬉しい、ありがとう黒子っち!」
「喜んでもらえて良かったです」

 お洒落や流行を良く知る黄瀬くんにプレゼントをするというのは、彼女じゃなくても頭を悩ませてしまうだろう。むしろ、彼女であれば何をあげても喜んでもらえるだろうが、そうじゃないからこそハードルが高い。
 今回は火神くんと買い物をしている時にたまたま会った氷室さんに貰ったアドバイスのおかげで、無事に黄瀬くんの好きそうなものを見つけることが出来た。ポーチの中に入った歯ブラシ、トゥースペースト、デンタルフロス、マウスウォッシュをそれぞれ取り出して見ながらニコニコとする黄瀬くんを見て、僕はほっと胸を撫で下ろした。

「ミントの他のランバス、ロイヤル、カラクムって何のフレーバーっスか?」
「マンゴー、ローズ、カルダモンで、その3つは数量限定って言ってました」
「げ、ローズって女かよ」
「青峰っち、古いっスよその発言」
「女性に人気みたいですけど、黄瀬くんもそういうの好きかなと思って」
「うん、好き好き。それに……歯ブラシが2本」

 ポーチの中から歯ブラシを2本出してニヤニヤする黄瀬くんは、僕のプレゼントの意図が読めたようだった。
 彼がニヤニヤする通り、1本は黄瀬くんのもので、もう1本は───────

さんの分です」
「なんでアイツの分が入っててお前がニヤニヤするんだよ」
「黒子っちがくれたお揃いっス」
「ほんといちいちうぜえ奴だな……」

 青峰くんはあっという間に2つめのハンバーガーを食べ終え、黄瀬くんが食べている途中だったポテトに手を伸ばしながらげんなりとした声を出した。
 喜ぶだろうと思って用意したものの、思った以上に緩い表情をする黄瀬くんに思わず僕も笑ってしまった。彼の喜び方を見ていると、プレゼントのしがいがあるというか、こちらまで嬉しくなってくる。

「黒子っちほんとありがとうね」
「いいえ、こちらこそ黄瀬くんが嬉しそうで良かったです」
「青峰っちはないんスか?」
「当日に電話してオメデトウ言ってやっただろーが」
「あれぜってーわざと邪魔するためにしてきた電話でしょ!」
「祝ってやったのに邪魔とか言ってんじゃねぇ」

 どうやら青峰くんは黄瀬くんのお誕生日に、わざと電話をしてさんとのデートを邪魔したらしい。何だかんだ言いながら、仲が良い。
 黄瀬くんのお皿に乗っていたポテトを全部食べきり、ナプキンで適当に手を拭った青峰くんはポケットから小さな紙を2枚取り出してテーブルに乗せた。

「おら、ありがたく受け取れ」

 がこないだ行きたいっつってた、と言う青峰くんが渡したプレゼントは、テーマパークの入園チケットだった。

「行きたいって言ってた?オレ聞いてない……つかオレへのプレゼントになってないじゃないスか」
「はあ?お前はが笑ってんの見てんのが一番好きだろーが」
「「…………」」

 先ほどまで黄瀬くんは僕らからのプレゼントを受け取ってあんなに嬉しそうにしてくれていたのに、青峰くんのその一言を聞いて僕は完全に負けた、と思ってしまった。
 別に勝負をしていたわけじゃない。けれど青峰くんが恥ずかしげもなく放ったその一言は、そう思わされてしまうものだった。
 お誕生日が楽しかった、お揃いが嬉しいとニヤニヤしている黄瀬くんに対してキモいうざいと顔をしかめようとも、青峰くんの心の中はどこまでも真っ直ぐで、ピュアだ。
 僕は青峰くんのそんなところがとても好きだと思う。

 黄瀬くんが一番好きなものをプレゼントする。
 そんな青峰くんの言葉に、黄瀬くんも僕も一瞬まばたきを忘れてしまったのだけれど、すぐに声を出して笑った黄瀬くんにつられて僕も笑い声を漏らした。

「オレ、青峰っちのそーいうとこ好きっスよ」
「はぁ?3倍にして返せよ」
「いや〜、こんなすごいプレゼント貰っちゃったら、これ以上のモン考えんのムズイっスわ」
「ふふ、僕も青峰くんのプレゼントには負けちゃいました」
「んだよテツまで」
「ちょっとキュンとしちゃったっスもん」
「キモいこと言ってんじゃねぇよ」
「まあまあ、ふたりともちょっとコレ持って、記念に写真撮らせて」

 貰ったプレゼントをそれぞれ僕と青峰くんに持たせて、黄瀬くんは写真を撮った。そして嬉しそうに携帯を操作しているのを見ると、どうやらさんに貰ったプレゼントの報告をしているようだった。
 
 会ってからずっとご機嫌な黄瀬くんに、お誕生日はさんとどう過ごしたんですか?と聞くと、青峰くんにすぐさま「余計なこと聞くな」と止められてしまった。けれど待ってましたと言わんばかりに黄瀬くんは話し始め、延々と続く惚気話に正直僕も聞かなければ良かったと思ってしまった。
 彼がいつも勝手に話し始める惚気話は聞き慣れていたけれど、今日のは比べ物にならないほどだった。
 それほど、本当にお誕生日は楽しかったらしい。

 これも含めてお誕生日プレゼントとして、今日は君の惚気話も黙って聞いてあげることにします。
 素敵なお誕生日を過ごせて良かったですね、黄瀬くん。







20210618
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