キミとふたりでひとつの、







「お誕生日おめでとう、りょうた」

 天井で輝くニセモノの星空のちいさな光のつぶに囲まれて、いつもの「黄瀬くん」ではなく彼の名前をぎこちなく呼んで微笑めば、とてもとてもしあわせそうな笑顔が返ってきた。彼がわたしに誕生日プレゼントとしてねだったのは、このふたつだけ。
 窓もカーテンも締め切って、視界に入る全ての明かりを消して、プラネタリウムのスイッチを入れた部屋の中で誕生日を迎えたい。そしてお祝いの言葉を言うときには、必ず名前で呼んで欲しい。たったの、これだけ。
 0時を迎える1時間以上も前から、わたしたちは真っ暗な部屋の中でぽつりぽつりと光る星空に囲まれながらベッドへと飛び込んだ。洗い立ての柔らかなシーツの中であれこれと他愛もないお喋りをして、そして彼はあちこちの星を三角形に結びつけ夏の大三角形をいくつもつくりあげた。家庭用のプラネタリウムは今年の事務所の新年会でビンゴ大会の景品だったものを黄瀬くんが当てたもので、その日につけたっきり使っていなかった。だからきっと、彼にとってこのちいさな光の粒に何の意味もないのだ。
 だからきっと、彼が作り上げたかったのは、星空が見えるきれいな空間ではなく、外の音も光も届かない、わたしたちふたりだけの空間。
 
 彼が誕生日に願うのが、わたしとふたりだけの時間。

 恋人同士になってから、今まで何度だってふたりで過ごしてきているのに、それでも彼が願うもの。これは本当に彼への誕生日プレゼントになっているのだろうか、と思ってしまう。そんな風に願われて、しあわせなのは彼よりも、わたしの方なのだ。
 それなのに。こんなにもしあわせそうに微笑まれてしまったら、わたしはこれ以上彼に何をあげられるというのだろう?

  わたしたちは天井の星空を見上げることもせず、横になってただお互いを見つめた。

「ありがとう」




 まるで世界にふたりだけ。流石にそんな風にまでは感じられなかったけれど、そんな風になりたかったのだ、と言えば彼女は笑うだろうか。
 今年で彼女と一緒に誕生日を迎えるのは何度目になるだろう。年月を重ねるたびに、彼女がさりげなく誕生日プレゼントを探ってくるのにも慣れてきて、それでも毎年そんな時間がくすぐったくて嬉しくて。そして今年は、オレから先にプレゼントのリクエストをすることにした。部屋でふたりきり、真っ暗にしてプラネタリウムをつけて、0時にオレの名前を呼んで欲しい、と。
 たったのそれだけ。きっと彼女はそう思ったのだろう。だけどこれが、オレの世界で一番欲しいもの。彼女にいい加減、気づいて欲しいのだ。オレが、世界で一番しあわせだと思う瞬間を。
 キミとふたりでいることが、それだけのことが、オレにとって何よりのしあわせだってこと。こんなにも、こんなにも、ただそれだけでいいんだってこと。それをキミに知って欲しいんだ。それが、オレの願う、キミからオレへのプレゼント。

「ふたりでひとつの星になりたい」

 そう言って、オレは彼女を抱きしめた。
 その言葉に、どんな意味があるかだなんて聞かないで。ただ黙って頷いて。どんな意味もないんだ。どんな言葉だっていいんだ。

 ただただ、ふたりでいたい。ひとつになりたい。

 どうしようもないオレの気持ちを、もっともっと知って欲しいんだ。腕の中に閉じ込めて、心の中でそう願った。
 スキやアイシテルの言葉が出こないほどのこの気持ちを、どうしたら伝えられるんだろう。

 キミと出会ってから、誕生日を迎えるたびに心の底から思うんだ。生まれてきて本当に良かった、って。キミと出会えて良かった。そのためのお祝いの日なんだよ、6月18日は。

 キミと出会えるしあわせなオレを祝福する日。ね、そうでしょ?











20200618
2style.net