しあわせに、ゆくとしくるとし








 12月31日、大晦日。

 年末の生特番に少しだけ出演する黄瀬くんのお仕事が終わったら、一緒に年越し蕎麦を食べてから初詣に行って、そしてふたりで黄瀬くんの家に帰って眠ろうというのが今年のプランだった。黄瀬くんの出演時間が22時頃で、待ち合わせ時間はテレビ局の近くで23時。私は某アイドルのカウントダウンライブを家で見たいって言ったのに、口元をひくつかせながら美味しいお蕎麦屋さんをもう予約してあると言われて、某アイドルに対抗心を燃やしている可愛い恋人の姿に免じて素直にOKしてあげたのだった。彼はピチピチのアイドル達にすら未だに負ける気はないようだった。ヤキモチを前面に押し出してこないところが少し大人になったのかなと思ったものの、口元がぴくぴくしてるんだからもう、彼のこれはきっと一生ものだ。相変わらず、テレビや雑誌ではほんの隙も見せないくらい完璧に演じるくせに、私の前だとぽろぽろとボロをこぼしてくるんだから可愛らしくて仕方がない。

 そんなわけで、黄瀬くんの部屋のテレビで彼の出演している番組を録画しながら私は出番を待った。バラエティ番組でクールに決めちゃって、それでも最後におちゃめな姿をひとつこぼして笑いをとって、これで彼の出演時間は終わりのようだった。アイドルにヤキモチなんか妬く必要もないくらい、2019年も最後までかっこよかったですよ、となんだか悔しい気持ちになりながら、私は先ほど撮ったばかりのテレビに映る黄瀬くんの写真を彼に送り付けて「今からタクシーを呼びます」とメッセージを添えた。きっとこのメッセージを見た彼は「感想は!?」と催促するのだろう。誰よりも一番だったなんて、悔しいから教えてあげないけど、今年もお世話になりましたって抱きしめてあげるから待っててね。

 今年の最後も愛しい恋人に会える幸せを噛み締めながら、私はコートを羽織り家を出た。




 指定された場所でタクシーを降りれば、帽子を深く被りマフラーに口元を埋めた黄瀬くんが俯いて携帯を弄っていた。ポケットの中で小さく震えた携帯に、私へのメッセージを送ってくれているのかな?と、そんなことにすら愛しさを感じてしまう。少し前までは大勢へ向けて笑顔を振りまいていた彼が、今は私だけのものなのだ。早く、私だけが知っている笑顔を見せて欲しい。
 黄瀬くんが下を向いているのを良いことに、タクシーを降りた私に気づいていない彼へ駆け寄り、真正面から抱きついた。見開かれた瞳に笑い声を漏らして、私は満面の笑みで黄瀬くんを見上げた。

「今年もありがとう」

 彼はきっと、突然抱きつかれたことにも、こんな路上で突然抱きついて来た私にも驚いているのだろう。けれどすぐに目尻を緩めて、口元を覆っていたマフラーを下げて綺麗に口角が上がった唇を見せてくれた。

「こちらこそ、ありがと」

 嬉しそうに笑って、私が見たかった笑顔を見せてくれた黄瀬くんは、そのまま私のおでこにひとつぶの口付けを落とした。冷えた空気の中でじんわりとあたたかくなるおでこの中心から、どんどんと身体中があたたかくなるような感覚がした。

 唇が離れた後、お返しと言わんばかりに黄瀬くんは私を強く抱きしめた。持ち上がりそうになる体を爪先立ちをして堪えれば、肩口に顔を埋めた黄瀬くんが呻いた。

「も〜〜〜今年も大好きだった!」
「っあは」

 なにこれ、なんだか中学生カップルみたいなやり取りに思わず笑ってしまった。

「来年もだいすき、もっともっと好き」
「ふふ、バカップルみたいだよ」
「いいんだもん、オレはバカだもん」
「私も黄瀬くんバカだね」
「来年もよろしくね」
「こちらこそ」

 心を込めて返事をすれば、黄瀬くんは抱きしめる腕を緩めてもう一度おでこに唇を寄せた。

「美味しいお蕎麦食べに行こ。オレが世界一のカウントダウンしてあげるから」

 まだ対抗心は消えていないらしい。ライバル心を燃やさなくったって、アイドルが何人揃ったって叶わないくらい、一番眩しいのは黄瀬くんの笑顔なのにね。

 2019年も、私は本当に幸せだったなぁと思いながら、黄瀬くんの隣にぴったりと寄り添って夜道を歩いた。




A HAPPY NEW YEAR?
go to 2020!







20191231
2style.net