Found the yellow





 放課後の体育館、バッシュの紐を結びながら嬉しそうに頬を緩める黄瀬を見て笠松は苦い顔をした。ただ紐を結んでいるだけであんな顔をする人間がいるだろうか、と。
 黄瀬の気分を表しているかのような、上向きに上がる目尻の睫毛と左右の口端。まるで子供が喜んでいるかのように、何のしがらみもなく目一杯に喜びを表したその表情は年頃の男の顔にはなかなか浮かばないものだった。そんな黄瀬の顔を見て笠松は相変わらず、と感心するのだがそれも束の間。紐を結び終わりストレッチを始めてもなお消えない表情に苛立ちが勝った。

「いつまでニヤけた顔してんだよ!」

 前屈をしていた黄瀬の背中に足を置き、力強く踏み込んだ笠松に黄瀬は悲鳴を上げた。

「痛っ、いててて!なにするんスか!」
「お前がいつまでもニヤニヤしてっからだろ!」

 キモいんだよ!と叫ぶ笠松も何のその、黄瀬はにへらと笑って返事をした。

「だってオレ、幸せなんスもん」

 見ている方が溶け落ちそうな表情をして、黄瀬は笠松に押されるままにぺたりと体育館の床に体をつけた。喝を入れてやろうとした笠松の行動も、黄瀬にとっては何の意味もなかったようだ。

「聞いてくださいよ〜笠松センパイ」
「聞きたかねぇよ、その顔やめろ」
「日に日にの持ってるモンに黄色が増えてくんス!」
「聞きたくねぇっつってんだろ!」

 笠松に背を踏まれ、床に体を付けたままの状態で黄瀬は器用に笠松を見上げた。相変わらず嬉しそうな表情を浮かべ、聞きたくないと言う笠松を無視して喋り続ける黄瀬に笠松の眉間には皺が寄る。

「まず最初に、ストラップの色が黄色に変わったんス」
「おい、聞かねぇっつってんだろ」
「それからノートにシャーペンにお弁当袋、今日は蛍光ペンが黄色になってたんスよ!」
「……だから何だっつーんだよ」
「絶対にオレを意識しての黄色っスよ!」
「はぁ?お前バカじゃねぇの、たまたまだろ全部」
「まだ使えるピンクの蛍光ペンを今日いきなり黄色に変えたんスよ!?」
「気分だろそんなの、蛍光ペンくらいオレも2色持ってるっつうの」
「違うんスよぉ。今まで黄色い物なんてあんま持ってなかったのに、最近急に増えたんスよ!ぜってーオレの色だからっス!」
「なにそのお前の色って」

 踏まれているという事もおかまいなしに喜びながら話す黄瀬に、笠松は苛立ちも消え若干引いていた。しかも、だ。こんなにも嬉しそうにしている話の内容がまさかの彼女である”の持ち物に黄色が増えた”というくだらない理由。喜ぶ意味が分からない、と思えば”黄色はオレの色”だと言い出す始末だ。笠松は足を置いていることすら疲れ、黄瀬の背中から足を避けた。
 そんな笠松を察しず、黄瀬は勢い良く上半身を起こしキラキラした瞳で笠松を見た。

「オレの名字に黄って入ってるじゃないスか!髪も黄色だし」
「お前ほんとバカだろ」
「あ〜もう笠松センパイは乙女心ってモンを分かってないっスねぇ」
「今の話のどこに乙女心が含まれてんだよ」
「好きな人を連想させるようなものを持ってたいじゃないスか!」
「……ハァ」
の持ち物に黄色見つける度にオレ嬉しくって!」

 この話をしているお前の方がよっぽど乙女だろ、と呆れながら笠松は背を向けた。

「練習中もニヤけやがったらぶっ飛ばすからな」





 流石の黄瀬も、練習中まで頬を緩めていることはなかった。
 いつも通り練習も半分を終え、15分間の休憩。部員それぞれが給水をし、タオルで汗を拭いていた。すると笠松の視界に、タオルに顔を埋めながらまた幸せそうな顔をしている黄瀬が映った。
 休憩中とは言え練習中。先ほど言った通りに笠松が後ろから飛び蹴りを食らわすと、黄瀬は痛いと漏らすもののすぐに体勢を整え笠松にタオルを見せつけた。

からの差し入れタオルっス!これも黄色!」
「お前って……ほんと幸せな奴だよな」

 何故彼女の持ち物に黄色が増えただけで、こんなに喜べるのか笠松には理解が出来なかった。そもそもが”黄瀬をイメージした黄色が好き”で集めているなどという考えに、何故なるのかがさっぱり分からない。ただ黄色が好きなだけじゃないのか、たまたま黄色の物が増えただけじゃないのか。
 何とも言えない黄瀬の甘ったるい表情と空気に笠松は胸やけのようなものを感じた。

「オレちょっと顔洗って来るっス」
「ついでに頭も冷やして来い」

 黄色いタオルを肩にかけ嬉しそうにする黄瀬に、笠松は追い出すように手を振った。



 体育館から出ると籠っていた熱気から解放され、涼やかな風が黄瀬の肌を撫でた。
 水道の蛇口をひねり、顔を下げかけた所で黄瀬の視界の隅にある人物が映った。黄瀬は蛇口を元に戻しながら顔を上げ、顔を輝かせ手を振った。

!」

 黄瀬の声に応えるように、も手を振り返した。片手にはコンビニの袋がぶら下がっている。

「差し入れ持ってきたよ」

 そう言って、小走りで黄瀬に近付いたは黄瀬から後3メートルという所で前のめりに転んだ。ペットボトルが地面にぶつかった音、ビニール袋が擦れた音、そしての小さな悲鳴が響き渡った。
 両手を出したおかげで盛大に転ぶことはなかったが、ついた膝は地面を擦り、じりじりと痛んだ。何もない所で転んだ恥ずかしさと手足の痛みにの目尻には涙が滲み早く起き上がらなきゃ、と思った時には黄瀬の声が頭上から聞こえ、黄瀬の素早さには驚いた。

「痛ったぁ…」
「大丈夫っスか!?」
「っわ、ちょ」
「膝から血ィ出てるっスよ!」

 の両脇に手を入れ抱き上げた黄瀬には驚きの声を上げるが、それよりも黄瀬はの膝に滲んだ血の方が気になるようだった。黄瀬は「降ろして」と言うに構わずそのまま横抱きにして水道へと足を向けた。

「ちょっ、と、恥ずかしいよ」

 が黄瀬の肩を軽く押しても、黄瀬は子供をたしなめるような顔をしてを見るだけだ。そして水道の前でしゃがみ込み、膝を立てた自分の足にを座らせるようにして蛇口を捻った。
 黄瀬の自分への扱いに、誰かに見られたら恥ずかしいだけじゃ済まない、とは慌てて立ちあがった。

「自分で出来るってば、ちょっと擦りむいただけだから」
「もう、なんであんな所で転ぶんスか」

 眉を下げてそう言われても、には返す言葉がなかった。
 好きで転んだわけではない。自分だって何故あそこで転んだのだと呆れるくらいだ。黄瀬の肩に手をついてバランスをとりながら片足を上げ軽く膝を折り、血の滲んだ膝を水で流しながらはそう思った。

「あっ」

 黙って膝を水で流していたが、さっと足を引いた。それを見て黄瀬は表情を曇らせ、所々赤い擦り傷がある膝からの顔へと視線を移した。

「痛いっスか?」
「ううん、靴下が濡れちゃいそうだったの」
「あぁ、脱いじゃった方がいいっスよ」

 そう言って、黄瀬はの足をとった。
 の靴を脱がし、靴下に手をかける黄瀬を見ての心臓は恥ずかしさで騒いだ。
 膝をつきの足を持つ黄瀬は、まるで王子様のようだった。黄色い髪が陽を反射し、きらきらと輝く輪はまるで王冠のように見える。
 お姫様のような気分を味わいながら、靴下が完全に脱がされた所では我に返った。この状況に若干酔いしれていたが、よく考えてみれば自分が履いていたものを黄瀬に触らせ、黙って見ていた自分に羞恥心が湧いたのだ。汗ばむ足に触られていることが気になり、は口早にお礼を言い蛇口から流れる水に足を突っ込んだ。
 そうして足先まで水で濡らすと、今度は黄瀬が声を漏らした。何かと思い黄瀬の顔に視線を移したが、自分の足に飛びつくように両手で触れた黄瀬には驚き目を見開いた。

「なっ、なに」

 掴まっていた肩を押して抵抗してみるものの、黄瀬はの足を掴んで離さない。臭ったとか、何か変な所があっただろうかと焦るとは反対に、黄瀬はじっとの足を見て顔を上げなかった。いつもなら顔を上げればすぐに見える表情も、今はの方が高い位置にいるため黄色い髪しか目に入らない。黄瀬が何を思い、考えているのかには分からなかった。
 両手を離してほしくて、顔を上げてほしくて、は再び肩を押しながら黄瀬の名を呼んだ。

「涼太」

 すると黄瀬は手は離さないもののすんなりと顔を上げた。しかしその顔には、いつもとは違う笑みが浮かんでいる。何かを企む様な、いつもの黄瀬なら見せないような不敵な笑み。瞼を下げ、口元に薄く笑みを湛えている黄瀬に見上げられ、は口を結んだ。
 こんな状況は、今まで経験したことがなかった。いつも見上げている黄瀬が、今は自分を見上げている。いつもにこにこと日差しの似合う笑顔を浮かべる黄瀬が、今は宵闇の方が似合うような色気のある微笑みを湛えている。いつもとは違う黄瀬に、は緊張で息を呑んだ。
 黄瀬の肩を掴んでいた手に、思わず力が入る。騒ぐ心臓に、声に動揺が出てしまいそうになりながらは口を開いた。

「なに?どうしたの?」
最近、身の回りに黄色増えたっスよね」

 疑問なのか肯定なのか曖昧な語尾で、しかし確信めいて言う黄瀬には固まった。バレている、と。
 黄瀬の言う通り、は黄瀬と付き合い始めてから黄色がよく視界に入るようになった。黄色を視界に捉える度に、黄瀬のことが頭に浮かぶ。そうして次第に今度は自ら黄色を集めるようになってしまった。黄色い物を持っていると、何故だか黄瀬に近付けたような、黄瀬のそばにいられるような、そんな気持ちになるのだ。今までは特に黄色を選ぶこともなかったが、今では色を選ぶ機会がある時は必ず黄色を手に取るようになってしまった。
 最初はストラップから始まった黄色も、今では徐々に増え、今日なんかはまだ使えたピンクの蛍光ペンを友人にあげ、黄色の蛍光ペンを使い始めてしまった。これからはノートも教科書も、全部黄色でマーカーを引くことが楽しみだ、と今朝思ったばかりだった。
 ほんの小さなこと、何の意味もないこと。自分でも少し呆れてしまうものの黄色の物を集めることを止められなかった。自然と、体が動くのだ。
 少しずつ増えてきた黄色い持ち物も、今では黄瀬が気付いてもおかしくないくらいの数になってきたかもしれないが、それでもまだ数えられる位だ。黄色が増えてきた理由まではきっと気付いていないであろう、気付かないでいて欲しい、とは頬に熱が集まるのを感じながら思った。

「そう、かな」
「うん、すっげー増えた」

 黄瀬は片手で足裏を支えたまま、空いた片手で水を払うように足先から膝下へ手を滑らせた。優しく柔らかに動くその手に、の背中にゾクリと何かが這う。

「りょ、涼太っ」
「なんで増えたの?」

 疑問になど微塵も感じていないような顔で黄瀬はに問いかけた。事実黄瀬は疑問になど感じていない。黄瀬の中にあるのは確信だけだった。自分の問いかけに唇を噛みしめ、上手い返事が思い付かないでいるを見て確信は更に強まった。問いかけにも、そして自分の行動にも動揺しているを見て黄瀬は嬉しさを感じると同時に、楽しくなってきてしまった。は黄瀬を想うだけでなく、黄瀬の行動ひとつひとつにこんなにも反応を返してくれる。結局それは黄瀬を想うが故なのだ、とすんなりと考えが辿りつく黄瀬は幸せだと思う感情が次から次へと溢れて止まなかった。
 だからこそ、が反応をすることをしたくなる。

「なんで黄色のペディキュアにしたんスか?」
「別、に、そういう気分だったから」

 黄瀬が驚いたように声を漏らしたのは、のペディキュアの色に気付いたからだった。紺の靴下から現れたの爪先は、綺麗な黄色に塗られていた。黄瀬が幸せを感じる、黄色だ。こんなところまで、と嬉しさを感じずにはいられなかった。
 が恥ずかしがっていることを黄瀬は理解している。それであえて問いかければ、は口籠りながら当たり障りのない返事をする。そのことに、黄瀬の口元は緩く上がった。

「ホントの理由は?」

 黄色いものを集めだした理由を気付いていそうだということを、黄瀬の態度から感じる。だが、そうではないことを祈るは“ホントの理由”など答える気はなかった。恥ずかしくて、答えられるわけがなかった。けれど自信たっぷりの瞳で見上げてくる黄瀬に、嘘をつくことも出来なかった。上手い嘘を考えられる精神状態でもない。
 触れられた足を振り払ってしまいたいと思うのに、体が固まってしまったかのように動かず、黄瀬の瞳から目を逸らすことも出来なかった。

「教えてくれねぇの?」

 そう聞かれても、はぐっと唇を結んで堪えるだけだった。

「なんで黙っちゃうんスかぁ」

 見慣れない微笑みから、いつもの見慣れた笑みを溢した黄瀬にがホッとしたのも束の間。黄瀬はの足を水流から出し持ち上げて、またいつもとは違う見慣れない笑みを溢した。何か嫌な予感がの中を走るが、体を通り抜けた頃にはもう、事は起きていた。
 キスを、したのだ。
 黄瀬はの足を持ち上げ、の黄色い爪先に口付けをひとつ、落とした。
 その行動には今までにないくらい目を見開いた。結んでいた口は簡単に開き、短く息を吸い込んで止まった。

「爪先へのキスの理由、知ってる?」
「知らな…なにしてんのっ」

 汚いのに、とは泣きそうな声で小さく呟いた。見慣れない黄瀬の雰囲気に、黄瀬の行動に、頭と心が混乱していた。
 黄瀬はそれを分かっていて、いつもとは違う表情を崩さない。動揺するが可愛いくて仕方がないのだ。けれど休憩の時間もそろそろ終わってしまう。いつまでもこの状況を楽しんではいられないことを心の隅で残念に思った。

がどうして黄色いものを集めてるか教えてくれないから、オレも秘密」

 そう言って黄瀬はもう一度の爪先に唇を落とした。
 一度目は固まって動けなかったも、二度目となると羞恥に体が動き慌てて足を引いた。自分の方へ引き寄せることは出来たものの、黄瀬の手は変わらずにの足を離してはくれなかった。

「りょうた」

 責めるというよりは懇願するようなの声は、瞳に涙が浮かんでいそうなものだった。恥ずかしさと、胸の鼓動と、溢れる感情に困惑しているのが聞いて取れる。
 黄瀬がの瞳を見つめれば、その瞳は不安げに揺れている。胸の奥がきゅう、と締め付けられるのを感じながら優しく足を引き寄せ、再び膝を水で流してやった。
 の瞳に涙が浮かぶ前に、休憩が終わり二人の時間が終わってしまう前に、に笑顔を戻さなければ。最後はの笑顔が見たい、と黄瀬はいつも思うのだ。

「保健室行って消毒するんスよ」
「…いいよ、これくらい」
「ダーメ、バイ菌は怖いんスから」
「おおげさ」

 先ほどまでの雰囲気は薄まり、普通に話を振ってくる黄瀬にはうまく気持ちの切り替えが出来ずそっけなく答えた。
 ドキドキが体中に響き、震えてしまいそうな気がして黄瀬の肩を掴む手に力が入る。自分の感情に恥ずかしいと思うものの、黄瀬に触れる手を離すことが出来なかった。触れてしまえば、きっと黄瀬には全てバレてしまうのに。
 どうして黄瀬は、突然あんな顔をしたのだろうとは思った。

「そんなこと言うなら膝にチューするっスよ!」
「なんでっ!?」

 足を引き寄せ唇を尖らせた黄瀬には慌てて足を引っ込め、そんなに黄瀬は声をたてて笑った。
 自分がわざと仕掛けたこととは言え、こんなにも意識をして反応を返してくれることが嬉しく、愛しかった。

「なんで逃げんスか!」
「何ででも!」

 ようやくいつもの黄瀬の笑顔が見え、は心の中でホッとしていた。
 いつもと違う笑みを浮かべる黄瀬も好きだ。いつも以上に高鳴る胸がその証拠だった。けれどやはり、いつもの黄瀬の笑顔が一番心をあたたかくしてくれた。じんわりと幸せをに感じさせるのは、黄瀬の満面の笑みなのだ。
 黄瀬は肩にかけていた黄色いタオルで濡れたの足を拭いて再び靴下を手にした。脱がせて拭いてもらっただけでなく最後は履かせてもらうなんて、と思ったは黄瀬の手が足から離れたのを見て、片足で飛ぶように一歩後ろに下がった。

「いい、自分で履けるから、もう練習戻らなきゃ休憩終わるでしょ?」

 お姫様扱いをしてもらうのは嬉しかったが、恥ずかしさと何も言わず甘えてしまってもいいのかという考えに悩まされじっとしていられなかった。それでもここまで大人しく黄瀬にされるがままだったのは、黄瀬がスマートに扱ってくれることに見惚れていたことと、何よりも自分にそこまでしてくれるという嬉しさがあったからだった。決して、嫌なわけではない。ただそれに素直に甘えてしまう自分は“良い子”から外れてしまうんじゃないかと、遠慮を知らない子だと黄瀬に嫌われてしまうんじゃないかという考えが浮かび、どうしても戸惑ってしまうのだ。
 当の黄瀬はの傷を悪化させないようにとを想う気持ちしかなく、が恥ずかしがることを可愛いと思うことはあれど、自分にされるがままのに悪い気持ちなど一切感じていなかった。むしろそれが黄瀬の喜びだった。

「まだ大丈夫っスよ、ずっと足上げてたから疲れたっしょ」
「平気、っわ」
「ホラ、また転ぶ」

 もう一歩後ろに下がったせいではバランスを崩し、黄瀬の言う通りずっと足を上げていたせいでバランスを立て直すことが出来ずに体を後ろにのけ反らせた。しかしすぐに黄瀬の手が伸び、の腕を引いて傾いた体を元に戻した。そうして黄瀬は自分の立てた膝をの足の下に差し入れた。
 結局先ほどと変わらぬ光景に、は息をついて諦めることにした。自分がいくら恥ずかしさを感じようとも、遠慮をしようとも、黄瀬が王子様のような人間だという事実は変わらないのだ。黄瀬の行動をは止めることが出来ず、またそれを嬉しいと思う気持ちを抱いてしまうことも止められなかった。

「…ありがと」
「部活終わるの待っててくれたら、さっきのキスの意味教えてあげてもいーっスよ」
「私は教えないからね」

 張り合うようにそう答えるは、教えないと言うことは“ホントの理由”がある、と白状してしまっているという事実に気付いていない。そのことに小さく笑いを漏らしながら、黄瀬はに靴下と靴を履かせた。
 地面に無事の足がついたのを見て、黄瀬はさっと立ち上がりいつものようにを見下ろした。見上げていたのも新鮮で良かったが、やはりいつもの方がしっくりとくる。
 も、黄瀬と同じことを考えながら見上げていた。

「まっ、いーっスよ。聞かなくても分かってっから、ね」
「っ!」

 そう言って黄瀬は腰を折り、の喉に口付けた。
 驚いて後ろに下がるに笑いかけ、差し入れだというスポーツドリンクを手に体育館へと一歩を踏み出す。

「差し入れサンキュー」
「ちょっ、ちょっと!」

 先ほどから動揺させられっぱなしなことに抗議の声を上げても、黄瀬はただ嬉しそうに笑って手を振った。

「喉へのキスの意味は、今度のデートの時に教えてあげるから」

 取り残されたは、黄色の物など目にしなくとも離れない黄瀬の表情や行動に赤くなる顔を抑えられなかった。





 ※キスの意味  爪先:崇拝 喉:欲求
20120617
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