100% devotion





「黄瀬くんってすごいよね」
っちに褒めてもらえるなんて嬉しーっス!」

 そう言って、黄瀬くんは私に抱き付いた。
 大きな体で勢い良く飛びついてくるのに、その衝撃はほんとうにわずかで私はいつも不思議な気持ちになる。あの勢いなら、私は後ろに倒れちゃうんじゃないかって思うのに。黄瀬くんはいつも物凄い勢いで、私に優しい。
 頬をすり寄せてくる黄瀬くんの髪が顔に当たってくすぐったくて、私は目を細めた。そしてその視線を下げて、黄瀬くんのお尻を見て手を伸ばして触れてみるのだけれど、彼の長身のせいで私の手はお尻までは届かなかった。

「届かない」
「ん?なんスか?」
「黄瀬くんのお尻まで手が届かないの」
「えっ」

 すり寄せていた頬を離して、黄瀬くんは丸くした目で私を見た。

っちがお尻フェチだとは知らなかったっス…!でも、っちならオレ…」
「お尻っていうか尻尾ね」
「……オレに尻尾はついてないっスよ」
「私には今見えたの」
「また犬扱いっスかぁ」

 眉尻を下げる黄瀬くんに、今度はしょげた耳が見えた。私は尻尾に触るのを諦めて、黄瀬くんの頭に手を伸ばし、見えた耳を撫でた。

「そこに耳もついてないっスよ」
「私には見えるの」

 そう言えば黄瀬くんは頬を膨らませて唇を尖らせ、その唇のままに私の唇にキスをした。柔らかいその唇はマシュマロみたい、なんて女の私が思うだなんておかしな話だ。彼自身がどこまでしているかは分からないけれど、流石現役モデル、お手入れが行き届いている。もしかしてそんなもの必要ないくらい整っているからこそ、モデルなのかもしれないけれど。

「黄瀬くんさぁ、私が何をすごいって言ったか分かってる?」
「バスケのことっしょ」
「ぶぶー」
「じゃあモデルのことっスね」
「ぶぶぶー」
「女の子にモテるとこっスか?」
「……」
「その顔はヤキモチっスね!」
「ぶぶぶぶぶぶぶぶ」

 次々と自分のすごい所を上げられるんだから、本当に黄瀬くんはすごい、と最初に言った意味意外で思った。その自信のありようが、何よりもすごい。呆れた顔で見ていたのに、それをヤキモチだと捉えるポジティブさも、ぶぶぶと言い続ける私の唇に楽しそうに唇をくっつけてくる所も。ぜんぶぜんぶ、好きだけど。
 でも私が最初に言ったのは、黄瀬くんが上げたすごい所とは違う。
 餌を啄む鳥のように、楽しそうに唇をくっつけてくる黄瀬くんの肩を押して、私は口を開いた。

「そういうところ」
「え?すごいところっスか?」
「うん」
「……キスが上手い所?でもこんなんオレの本領じゃないっスよ」

 男の顔をチラつかせて顔を寄せて来た黄瀬くんの口を私は手で押さえた。

「待て」
「だから、犬じゃないって」
「最後まで私の話聞かないんだもん。それまでおあずけ」

 犬扱いされたことも、おあずけさせられていることも、どちらにも不満げな顔をしながらも黄瀬くんは私から少し距離を取って話を聞く姿勢になった。ほら、待てが出来るおりこうさんな大きいワンコでしょう?

「あのね、黄瀬くんのすごいところはね」
「うん」

 それでも、“すごいところ”と私が褒めていることが嬉しいのか、しょげかけていた耳も尻尾もすぐに元気になり、彼の口は抑えられない期待に弧を描いている。
 私はそんな黄瀬くんを見て、心の中でもう一度「そういうところ」と呟いた。

「どんな時でも100%で返してくれるところ」
「100パー?」
「黄瀬くんって、私のこと適当にあしらうことも、おざなりにすることもないでしょ」
「そんなんするわけないじゃないっスか!」
「そんなことないよ。眠たい時とか、何かをしている時とか、バスケしてる時とか。その合間だったら普通、私になんて気回らないよ。でも黄瀬くんはどんな時でも、私に返してくれるときは100%で適当なことはしない」

 逆を言えば、100%にならない時は私を見ない。私に瞳を見せてくれる時は100%の時だけなのだ。集中力も切り替えの速さもすごいけれど、誰かに一生懸命で一途な黄瀬くんのそんなところがすごいと思う。そしてそれを向けられているのが私だということが、本当に幸せだと思う。

「すごいのはっちっスよ」

 不思議そうな顔をしていた黄瀬くんは、目元と口元を上げて、それは幸せそうに笑った。私が褒めるのを嬉しそうに待っていた笑顔とは違う、とても幸せそうな笑顔だった。
 今度は私が不思議に顔を傾ける番だった。

「なんで私?」
「オレが100パーになれんのは、っちだからっスよ。オレ何でも出来るけど、その分飽きちゃったものも多いし」

 “だから、すごいのはオレを100パーに出来るっちの方っス!”

 なんて、力いっぱいに言われて、私はやっぱり“そういうところ”と心の中で思うのだ。






20120527
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