僕は君とキスがしたい


「キスしていい?」「ダメ」からはじまるシリーズ
01.黄瀬 / 02.青峰 / 03.黒子 / 04.緑間 / 05.紫原 / 06.火神 / 07.赤司










・黄瀬涼太は君とキスがしたい

「キスしていい?」

 ソファで一緒にテレビを見ていると、急に涼太は私の身体を閉じ込めるように腰の両側に手をついた。背中を丸めて、わざと上目遣いをしながら聞いてきた一言に、私はにっこりと笑って返事をした。

「だめ」

 その二文字を聞いて驚きに目を丸くする涼太を見て、私の笑顔は深まった。

「なんでっ!?」

 信じられないと言わんばかりに、可愛い子ぶって丸められていた背中はぴんと伸び、今度は覆いかぶさるような姿勢でじっと私を見下ろしていた。

「そんなに驚くこと?」
「だってダメな理由ないもん!」
「ないって言いきれるのがすごいね」
「だってないじゃん!なんかある!?」

 だってだって、とまるで子供みたいに私に詰め寄る涼太を見ていると、どんどんと面白くなってきてしまう。

「何かあるからダメって言うんじゃないの?」
「ない!オレがキスしちゃダメな理由なんてあるはずない!!」

 私の両肩を掴んで揺する勢いで言い切る涼太をみんなに見せてあげたいなぁと思った。女の子を騒がすモデルのキセリョは、誌面に映っている通りに自信満々で、そしてこんなに可愛い駄々っ子なんですよ、って。

「そこまで言い切るならなんでキスしていいか聞いたの?」

 ダメな理由がないなら、したいようにしちゃえば良かったのに。そう言えば、涼太は口を尖らせながら目を逸らした。

「……いいよ、って照れながら言うところ見たくて」
「絶対にそんなことは言ってあげない」
「ひどいっス!」
「はいはい」

 上目遣いで可愛い子ぶった表情を見せてきた段階で何かを狙ってたのはバレバレだけど、もちろん狙い通りに可愛いなぁと思ってときめいてしまったけれど、そんな簡単にお好み通りの言葉を言ってあげないんだからね。

「待って待って!まだある、もう1個ある!」
「なに?」

 両肩を掴まれて覆いかぶさられてる状態じゃどこにも逃げられないのに、わざとそっけない返事をする私に待って待ってと気を引こうと必死になって、そうして今度はぐっと顔を近づけてきた。
 涼太は表情も行動もくるくる変わる。引き出しが多すぎて、いつも目まぐるしくて、私はくらくらしてしまう。そんな自分を必死にとどめておくのがどれほど大変なのか、彼はきっと、分かってる。分かっててこうして楽しんでいるのだ。

「わざと聞いて、ドキッとさせたかったの」

 そのまま掠め取るように唇を奪われて、私はゆっくりと瞬きをした。

「……わたし、だめって言ったよね?」
「ドキッとした?」
「してない」

 まんまとドキドキさせられてしまった気持ちを吹き飛ばすように思いっきり涼太を睨みつければ、涼太は楽しそうに声を上げて笑った。



* * *




・青峰大輝は君とキスがしたい

「なあ、キスしていいか」
「ダ───」

 ダメだと、そう告げ終わる前に私の唇は大輝の少しかさついたあたたかい唇に覆われた。

「わたし今ダメって言ったよね?」

 はっきりと言い切れなかったにしても、ダメだという言葉はしっかりと大輝に届いていたはずだ。

「いや別にダメだろうと関係ねえし」

 そもそも、ダメだというのもただも気まぐれで、当たり前にダメなわけがないから敢えてダメだと言ってみたかっただけだった。だからキスをされても何も問題はないのだけれど、ダメだと言われても平然とキスをして、更にはダメでも関係ないっていうのは如何なものかと思うのですが。いくら私の恋人だとしても。

「じゃあなんで聞いたの?」
「なんとなく?」
「なにそれ〜」
「つうか、ダメってなんだダメって」
「キスをしてはいけません、ってこと」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよ」

 今になってダメだと言われたことが気にかかっているのか、どういうことだコラとチンピラのように詰め寄ってきながら、私の機嫌を伺うように優しく身体に腕を回して自分に引き寄せる大輝に私は笑った。



* * *




・黒子テツヤは君にキスがしたい

「キスしてもいいですか?」

 二人で一緒にバスケ雑誌を眺めていたら、急にそんなことを言い出した黒子くんに私は驚いてすぐには返事が出来なかった。

「……だめ、です」

 驚いてしまったせいか、何故だかすぐに“いいよ”という言葉が出てこなくて、私は咄嗟に拒否の言葉を口にしてしまった。ダメだなんてこれっぽっちも思っていないのに。黒子くんの気分を悪くさせてしまっただろうか、と恐る恐る顔色を窺えば、黒子くんは嬉しそうに微笑んだ。

「キス、してもいい?」

 私は確かに”ダメ”だと言ったはずなのに、何故黒子くんはこうも嬉しそうにしているんだろう。そして何故、めげずに同じ質問を繰り返したんだろう。しかも、いつものような丁寧な言葉遣いではなくて、黒子くんにしては珍しい親しみやすい言葉遣い。どうして黒子くんがこうなってしまったのか分からないまま、私は同じ言葉を繰り返した。いつもとは少し様子が違う黒子くんに、ドキドキしながら。

「……駄目」
「キスするよ?」

 駄目だと言っているのに、黒子くんはどんどん楽しそうにしていて、どんどん顔を近づけてきていて、ついには私の唇に黒子くんの唇が優しくくっついてしまった。

「だ、めって言ってるのに!」

 本心で言っているわけじゃない。けれどまさか、黒子くんが私が駄目だと言うことを無視して行動にでるだなんて信じられないことだった。どう考えても私の声色は駄目だと思っていなくて、態度だって駄目なようにはまったく見えないんだから、とても無理強いだなんて言えることではないけれど。それでも黒子くんが、私に肯定の言葉を口にさせる前に行動に出るなんて初めてのことだ。

「駄目だと言われると、余計にしたくなりますね」
「えぇ?」
「それに、駄目だと言われるとなんだか楽しいです」

 なんだか楽しそうなのは見ていて伝わっていたけど、どうやら黒子くんは本当に楽しかったようだ。いつもの口調に戻った黒子くんは、それでもいつもの黒子くんにはもう戻れないらしい。

「黒子くんが、新しい扉を開いてしまった……」
「君のせいですね」

 それはそれはとても嬉しそうに微笑んで、もう一度黒子くんが私の唇に触れた。



* * *




・緑間真太郎は君とキスがしたい

「キスをしてもいいか?」

 律儀にもそんなことをいちいち聞いてきた彼に、私は一言で返事をした。

「だめ」
「……そうか」

 言葉に詰まる真ちゃんを見て、私は笑いを堪えた。そんなことをいちいち聞かなくたっていいのに。そう思いながら。

「どうしても駄目か?」
「だめ」

 いよいよ嬉しくて笑ってしまいそう。そんな風に粘ってくれるだなんて。少し困惑気味に確認をする真ちゃんに、私はもう一度同じ返事をした。

「何故駄目なんだ」
「ふふふ」

 最初の驚き、そして後の困惑、最終的には理解できないといった様子で私を見つめる真ちゃんに、ついに笑いをこぼしてしまった。ちょっとした冗談が、こんなにも真剣な議題になってしまうだなんて。

「駄目だと思っているようには見えないんだが」
「そう?」
「あぁ。本当に駄目なのか?」
「うん、だめ」

 もう一度はっきりと二文字を声にすると、真ちゃんはむっつりと不機嫌そうな顔を近づけて私の唇を奪った。不満をぶつけるように、いつもより少し強引で強い口付け。
 唇が離れた後、私はわざとらしく少し大きな声を出した。

「え〜?わたし、だめって言ったよ?」
「俺にはいいよ、と聞こえた」
「うそだあ、ちゃんとだめって言いました」

 何度もだめだめと言われるのがお気に召さないらしい。眼鏡の奥の瞳が不貞腐れている。

「俺はいつもお前の心の声を聞いているんだ。言葉に惑わされたりなどしない」
「惑わしてなんかいないよ?」
「惑わしていただろう」
「ちがうよ、遊んでただーけ」

 不貞腐れて少し寂し気な緑色の瞳に、私の胸がすこしぎゅうっと締め付けられた。ごめんなさいの気持ちを込めて抱き着けば、彼の大きな手が私の頭を優しく撫ぜた。

「一緒だ馬鹿め」



* * *




・紫原敦は君にキスがしたい

「ね〜、キスしていい〜?」

 隣で黙々とお菓子を食べていたと思ったら、突然そんなことを聞いてきた敦に私は2、3度瞬きをした。わざわざそんなことを確認してくるだなんて珍しいこともあるもんだ。

「ダメ」

 こんな珍しい質問に、あっさりいいよと返してしまっては勿体ない、と何故だかそう思った私は咄嗟にダメだと返事をしていた。

「ええ〜?」

 敦もまさかダメだと返されるとは思っていなかったのだろう。不満気な声を漏らしながら手にしていたポテチを口の中に放り込んだ後、咀嚼をしながら何かを考えているようだった。
 何かを思いついたのか、テーブルの下にあったティッシュを引き寄せ、面倒臭そうに口の周りを拭いて、そうして再び私の方に顔を向けた。

「はい、ポテチの塩拭いたよ。いーい?」

 どうやら敦は、お菓子が口の周りについているからダメだと言われたんだと解釈したらしい。そんなのはだいたいいつものことなのに、何を今更と思いながら、私は顔の前で指をクロスに交差させた。

「だーめ」
「ええ〜?なんで〜」

 楽しそうにしている私とは反対にうんざりとした顔を向ける敦は、それでもめげないのか再び何かを考えるしぐさを見せ、そして今度は鞄の中を漁り始めた。

「も〜、あるかわかんね〜し〜」
「なに探してるの?」
「めんどいな〜」

 一人でぶつぶつ文句を言いながら鞄の中から何を探しているんだろう。返事もしてくれないので大人しく黙って見ていたら、敦の手の動きがぴたりと止まった。

「おーあった奇跡」

 嬉しそうにしている敦の手の中には小さな飴の袋が握られていて、さっさと袋を開けて口に放り込んだ敦はずいずいと顔を私に寄せた。

「はい、レモンの飴食べてる。いい?キスしても」

 私がダメだと言ったことに、一体どんな可愛い理由を考えてくれたんだろう?と楽しくて肩を震わせながら、いいよと言ってしまいたいのを堪えてもう一度私は同じ言葉を敦に伝えた。

「だめー」
「なんなんだよもぉ〜」

 いい加減怒るだろうか。不機嫌になってしまうだろうか。少し体を離して目を細めて私を見る敦にそんなことを思っていると、敦の口元がにんまりと孤を描いた。

「わかった」
「ん?」
「キスしていい?」
「だからダ────め、ちょっ、あ───つ、し」

 一言を言い切る前に、5回も唇で言葉を遮って、敦は悪戯しているところを見つけたような意地悪な顔をしていた。

「こうしたかったんでしょ」
「えぇ?」
「無理矢理プレイ」
「え!?ちが────、ちょっと、待っ、あつし!」

 私がダメだと言う理由を可愛いものばかり探し出してくれていたのに、最終的になんてことを考えてくれたんだろう。そんなことを考えてなんかいない、とはっきり伝えたいのに、次々と落ちてくるレモン味の口付けに阻まれて上手くいかない。
 それに、私たちのファーストキスはレモンの味なんかじゃなくって、まいう棒のテリヤキチキン味だったこと、敦ちゃんと覚えてる?

「やらし〜」

 散々唇を塞いでようやく満足したのか、敦が笑った。



* * *




・火神大我は君とキスがしたい

「なぁ、キスしていいか?」
「ダメ」
「ッ、そ、そうか……悪い」

 熱っぽくそんなことを聞いていた大我に意地悪でダメだと伝えたら、予想外にしょんぼりと肩を落とされてしまって逆に私が慌ててしまった。

「ちょっと、そんなしょんぼりしないでよ」
「じゃ、じゃあ!」
「ダメ」
「なんっでだよ!オレのこと嫌いになったのか!?」

 励ますように肩を叩けば嬉しそうに顔を上げて、そんな大我にもう一度ダメだと告げると今度は納得がいかなそうに眉を寄せた。いちいち素直で、表現豊かな大我を見ているとついつい気を引くようなことを言いたくなってしまう。

「嫌いになんてなってないよ。大好きだよ?」
「じゃあなんでキスするの嫌なんだよ」

 大好き、と言う私の言葉に気恥ずかしそうに頬を染めて、大我は尚更納得がいかないと唇を尖らせた。

「嫌なんて言ってないよ、ダメって言ったの」
「一緒だろ!」
「一緒じゃないよ」
「どう違うんだよ」
「どうって……ん〜、アイドントノウ」
「ハァ?なんだよそれ」

 私の下手くそな英語の発音を聞いて、大我は呆れたように肩を落とした。そして私の下手くそな英語を聞いて何かを思いついたのか、にやりと悪っこい笑顔を私に向けた。

「You turn me on. Is it OK for me to love you?」
「……え?も、もう一回」

 急に発音の良い英語を聞かされて、私の耳が慌てて聞き取れたのは最初のユーと、最後のラブユーだけだった。疑問形だったのは分かるけど、今の言葉になんて返せばいいのか分からない。もう一回お願いしたところで私に意味の分かる英語なのだろうか。次は聞き逃さないように、とじっと大我を見つめてみれば、大我もじっと私を見つめている。最初のような、熱っぽい瞳で。
 この雰囲気は、まさか、と思えばそのまさか。大我は私にそのまま熱っぽいキスをして、そうして嬉しそうにガッツポーズをした。

「っしゃあ!Yes も No もねーならOKってことだろ!」
「それは反則でしょ!?なんて言ったのか教えてよ!」

 そもそも、私にキスするしないは試合の勝ち負けじゃあないっていうのに!熱っぽい視線とキスにクラクラとさせられてしまった私はそれこそ大我に負けたようで悔しくて、彼の引き締まったお腹に握った拳をぶつけた。



* * *




・赤司征十郎は君とキスがしたい

「キスをしてもいいか?」
「……だめです」
「そうか、わかった」

 そんなことを言ったらどうなるんだろう?ちょっとした好奇心で珍しく反抗の言葉を口にしてみれば、何事もないようにあっさりと納得されてしまって逆に私が寂しくなってしまった。

「……」
「どうした?」
「いいの?」
「何がだ?」
「キス、しなくていいの?」
「駄目だと言われたからね」
「それでいいの?」

 これじゃあ逆にキスをして欲しいとせがんでいるようなものだった。駄目だと言ったのは私で、駄目だと言われたのは赤司くんの方だというのに、まるで立場が逆だ。何度も何度も確認する私に、赤司くんは優しく微笑んで私の髪に手を滑らせた。

「俺は嫌がることをする気はないよ」
「でも、そんなあっさり……」
「なんだ、じゃあキスをしてもいいのか?」
「ダメ、です」

 して欲しい。でもここであっさりいいよと言うのはなんだか悔しい。せっかく赤司くんがもう一度聞いてくれたと言うのに、私は可愛げもない態度でもう一度反抗の言葉を彼に投げつけた。

「そうか」

 それなのに赤司くんはやっぱりあっさりと納得をして、そうして笑った。髪に滑らせていた手でとんとん、と二度ほど私の頬をつついて「じゃあ」と優しい声色が聞こえた。
 悔しさで俯けていた顔を上げて赤司くんを見れば、柔らかい微笑みにそぐわない言葉を投げかけられてしまった。

「お仕置きだ」
「え?」
「嘘をつく子は嫌いだ」

 とんとん、と頬をつついたリズムと同じように二度唇を重ねられて、にっこりと微笑んだ赤司くんの言葉を聞いて私はゆっくりと瞼を下ろした。

「罰として、俺からのキスを受けてもらおうか」






20170823
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