背後の愛にご注意





 黄瀬と二人で歩いていると前方に彼女を見つけ、名前を呼ぼうとすれば彼女は突然転び、オレは驚いて声を出すのよりも先に足が動いた。
 ちなみに彼女の足元には何もない。

「お前何やってんだよ!」
「青峰くん!見てたの!?」
「見てたの、じゃねぇよ」

 両手両膝をついている彼女に怒鳴るように声をかければ、驚きオレを見上げた後、恥ずかしそうな顔をした。
 腕を掴んで引き上げれば、彼女はよろめきながら照れたように笑った。

「転んじゃった」
「なんで何もないとこで転ぶんだよ」
「それは私が知りたい」
「ぼけっとしてねーでちゃんと歩け」
「そんな怒んなくたっていいじゃん」
「そーっスよ、青峰っちはこわいっスねえ」

 彼女に同意するように、先程の場所に置いてきた黄瀬がいつの間にか顔を出して笑いかけた。

「黄瀬くんも見てたの?」
「見えちゃったっスねえ」

 含みを持たせた言い方をする黄瀬にオレは舌打ちをした。
 見えたのは転んだ姿だけじゃない、コイツのパンツもだ。

「やだも〜恥ずかしいんだけど」
「そんなことより血がでちゃってるっスよ。砂も洗った方がいいし」

 黄瀬はそんなことを言いながらしゃがみ彼女の膝についた砂を軽くはらった後、立ち上がったかと思えばオレが掴んでいない方の彼女の手をさっと握った。

「また転んじゃったら困るから、オレが手繋いでエスコートするっスよ」
「さっすが黄瀬くん、どっかの誰かと違って王子様みたい!」
「あァ!?お前がしょっちゅうつまづいたり転んだりするからだろーが!」
「だからってそんな怒らなくたっていいでしょ」

 何もないような所で転ぶコイツが、いつかたった少しの段差や下り坂で大怪我をするんじゃないかとヒヤヒヤしているオレの気持ちがこれっぽっちも伝わっていないらしい。
 黄瀬のように甘やかしていつか大怪我してからじゃ遅いんだよ!

 そんなことを心の中で思いながら睨めば、彼女は怯えたように黄瀬の方へと寄った。オレはいらいらしながら掴んでいた二の腕に力を入れ引き寄せ、黄瀬から彼女を少しでも遠ざけようとした。

「さっさと行くぞドジ女」
「どっ……ドジ女ってそんな言い方」
「青峰っちこわ〜い。ちょっとおっちょこちょいな所が可愛いのに、ねー?」
「ね〜?」

 引っ張られるようにして歩く彼女の隣で繋いだ手をゆらゆらと揺らしながら呑気なことを抜かす黄瀬に更にいらいらとする。
 ね〜、じゃねぇんだよ。怪我して痛いのはお前なんだからな!つうか黄瀬なんかと手繋いでんじゃねぇよ!

「でも転んで怪我するのは心配だから、気をつけて歩くんスよ」
「うん、分かった」

 “分かった” だァ?
 オレが言っても素直に聞かないくせに、なんだよその態度の違いは!

「次また転んだらオレと手を繋がなきゃ歩かせない゛──────ってェ!」

 ふざけたことを抜かす黄瀬に苛立ちがピークに達し、オレは黄瀬のケツを蹴った。

「なにすんだよ!」
「お前うるせんだよ!」
「えっ、なになに?どうしたの急に」
「ハァ?悔しかったら怒鳴ってねーで素直に言えばいいんじゃないスか」
「調子に乗んなよ」
「いやいや残念ながらオレはいつでもチョーシ絶好調なんで」
「それがうぜえって言ってんだよ!」
「ちょっと二人とも!?」

 後ろでオレと黄瀬が蹴り合っているのを、顔を上げて交互にオレと黄瀬の顔を見ている彼女は気付いていないらしい。眉を下げた彼女の顔が、右へ左へと忙しなく動いている。オレが怒鳴ることはあれど、黄瀬が声を荒げることは滅多にないため言い合いを始めたオレ達に彼女は余計に驚いているらしい。
 黄瀬が声を荒げないのは女の前でだけ、だけどな。

「つうかお前、手離せよ!」
「青峰っちこそ乱暴に掴むの止めてあげたら?」
「ほっといたらこいつまた転ぶだろうが!」
「オレがエスコートしてるから平気ですう」
「コイツに先に目つけたのはオレだろ!」
「「……え?」」

 黄瀬と彼女両方に驚いた顔を向けられ、勢いが止まる。
 その後真っ赤になる彼女とは対照にニヤニヤとした腹立たしい笑みを浮かべる黄瀬を見て、オレは自分の言い間違いに気付いた。

 “先に駆けつけたのはオレだ”

 そう言いたかったのだ。だから二人もいらない、と。
 しかし考えてみればどっちも意味は同じだ。彼女の隣に二人はいらない、オレだけでいいと思っている。

「青峰っちこわ〜い。狩られないように気をつけるんスよ」
「黄瀬くん変なこと言わないでよ」

 赤くなった顔を隠すように黄瀬に顔を向ける彼女を見て、そろそろオレも腹をくくろうと思った。
 だが、その前にひとつ。

「痛って!」

 最後にもう一度、怒りをぶつけるように黄瀬のケツを蹴った。

 マジで邪魔なんだよモデル様!






20140415
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