幼稚な数センチメートル





 帰り道、日向と二人で手を繋いで歩いていた。

 つい先程までは伊月くんと木吉も一緒にいたのだけれど、日向は私を家まで送るために私と同じ道に来てくれていた。だから今は、私と日向の二人きりだ。
 木吉達がいた時は手を繋いでいなかったけれど、二人の姿が見えなくなった頃に日向は私の手をそっと握った。日向はいつも二人きりになると手を握ってくれる。それがまるで二人だけの秘密みたいで、私は好きだった。

 繋いだ手をゆっくりと前後に振りながら、日向のことを見上げてみる。彼は戦国武将について熱く語っていた。日向の話を聞いてだいぶ私も詳しくはなったものの、今彼が話している武将の名前はまだ聞いたことがなかった。話についていけなかった私はつい思考が逸れてしまい、先程の木吉と話したことを思い出していた。

「おい、聞いてんのか?」

 ぼうっとした視線を送る私の意識を引くように日向が握る手に力を込めた。私は日向の顔よりも少し上を見つめたまま、口を開いた。

「木吉って大きいよね」
「はあ?」

 つい数分前まで、伊月くんと木吉が一緒にいた時のことだった。
 日向が伊月くんと並んで歩き話し込んでいる後ろで、私と木吉は仲良く新作の黒飴を舐めていた。二人で「やっぱり昔ながらのが一番だ」なんておじいちゃんおばあちゃんみたいな会話をしていたのだ。



 そうして並んで歩いていると、日頃から大きい大きいと思っていたけれど改めて“大きい”という感情が私の中に浮かんだ。

「木吉大きいよねえ」
「んん?そうだなあ」
「彼女はどんな気分になるんだろ」
「背の高さで彼女の気分は変わるものなのか?」
「どうだろ、分かんないけどなんか変わりそう」
「じゃあちょっと試してみるか」

 そう言って、木吉は私の手を握った。手を繋いで歩けば、確かに彼女気分を味わえる。

「手が!」
「ん?」
「でかいでかいとは聞いてたけど、手がおっきいねホントに!」
「そんな驚くほどじゃないだろ」
「驚くほどだよ。そして距離が近付くと余計に身長差を感じる。でかい」
「さっきから“でかい”しか言われてないなぁ」
「うん、彼女になったら“でかい”っていう気分になる」
「それ彼女じゃなくても思ってたことだろ」

 笑って手を離す木吉に私も笑った。
 まぁ簡単に言えば“でかい”だけど、その距離感により“男の子”なんだなぁっていう違いを感じて、彼女はきっとドキドキしたり安心感を覚えるんだと思った。



 ──────────と、木吉の顔があるであろう場所、日向の顔の少し上を見ながら先程の木吉との出来事を話せば、少し視線を下げた先に目を細めた日向がいた。

「お前ら後ろで何やってんだよ」
「あっ、浮気じゃないよ」
「浮気でたまるか!」

 ただ木吉がやっぱり“大きい”という話をしたかっただけなのに、機嫌を損ねてしまったと思い弁明すれば更に機嫌を悪くしてしまったようだった。話を戻そう、と思ったものの知らない武将の話をされていて意識が逸れてしまったことを思い出し、話を戻すに戻せなかった。
 何か違う新しい話題、と考えていると日向が突然歩道脇の段差に飛び乗った。私とは手を繋いだまま、歩幅も合わせたまま、15cmほどの高さのコンクリートの上を歩いている。そのせいで、日向と私の身長差がぐんと広がった。

「日向?なにしてんの?」
「オレは子供心を忘れねー男なの」

 子供心?私も子供の頃は段差の上を歩くのが楽しくて好きだった記憶がある。それにしたって、急にどうして?
 そう考えながら日向を見上げてみれば、彼が段差に上がった理由がすぐに分かってしまった。
 日向の顔がある高さは、木吉の顔がある高さだ。
 私は別に背が高い木吉がいいなぁとか格好良いとは一言も言っていないのに。日向にとっては「木吉大きい」という言葉自体が褒め言葉で、男のプライドを刺激されてしまったのだろう。
 木吉よりは小さいにしても、日向の身長だって十分大きいと思うんだけどなあ。

「じゅんぺーくーん」
「なんだよ」
「子供なのに返事が可愛らしくない」
「子供なんじゃなくて子供心を忘れてねぇだけだっつの」

 日向はいつもより離れた距離にいる私を見下ろして、私はいつもより遠くにいる日向を見上げた。日向の不機嫌顔はいつの間にか消えていて、逆に今は私の顔に不満気な色が浮かんでいる。

「ねぇ日向、なんでそこに上るの?」
「だから──────」
「降りてよ」

 日向の手を引きながらそう抗議してみても、彼の体はびくともしない。

「ねぇ、じゅんぺーくん」
「なんでお前そんな顔してんの」

 そんな顔って、どんな顔?
 いつもより離れてしまった日向とのこの距離が嫌だ、と寂しい、と思っている顔?
 もう一度手を引けば、今度はすんなりと降りてくれた。

「背がでかいのが良いんじゃねーのかよ」

 ほらやっぱり。
 子供心じゃなくて、木吉への対抗心だったんじゃん。
 いつもの距離に戻った日向にくっつくように自分の腕をぶつけながら、近くに戻って来た日向の顔を見上げた。

 いつもだって、少し遠いくらいなのに。

「日向はこれ以上大きくなっちゃダメ」
「まだまだ成長期だから伸びますう」
「だめですう」
「なんでだよ」
「日向の顔が遠くなっちゃうのやだもん」
「……は」

 私の不満を聞いてぽかん、と口を開けた日向は再び段差に飛び乗ってしまった。

「ちょっとぉ!やだって言ったのに!」
「うるせぇ!そのうち2mくらいになるから今の内に慣れろ!」
「ならない!縮む呪いかける!」

 再び遠くなったどころか、そっぽを向かれてしまい日向の顔すら見えなくなってしまった。
 確かに、木吉のように背の高い男の子は魅力的かもしれない。だけど私にとっては、日向に限っては、今のままが一番なのだ。いつもの距離が離れてしまうのは寂しい。

 なのに、どうして距離をとろうとするの?








(夕陽のせいで、赤くなっていた日向の耳に気付けなかったのが悔しい)


20140414
2style.net