シンデレラタイム





 深夜0時30分。私は2時間ほど前から本を読んでいた。物語の展開はちょうど山場を迎えている。部屋の中はしんと静まり、時計の音とページを捲る際の紙の擦れる音しか響いていなかった。
 今日は、この本が読み終わるまでは眠る気はない。
 ページを捲る手が止まらず物語の中に入り込んでいると、30分前にベッドに入った涼太が私の名前を呼んだ。

「いつまで本読んでるんスか〜」
「もうちょっと」
「もう1時になるよ」
「先に寝てていいよ。てかまだ起きてたの?」
「ひど!」

 ひど、と言われても30分も前にベッドに入って静かにされていたら、もう寝たんだと思うのが普通だ。
「そろそろ寝よーよ」
「今いいとこなの」
「も〜じゃあ後30分だけっスよ」
 というのが30分前の会話。あんまりにも静かだから私が本を読んでいる間にてっきり寝たものだと思っていたら、どうやらきっちり30分間待っていてくれたらしい。

「夜更かしはお肌に悪いっスよ」
「ん〜」
「シンデレラタイムは22時から2時までなんだから、残り1時間半しなかねーよ!」
「モデルうるさい」
「また明日読めばいーじゃん」
「んー」
「ぜってー明日また朝起きんのつらくなんだから」
「…………」
「ホラも〜終わり!寝よ!」
「も〜ひとりで寝なよ!寝れないなら電気消すから!」

 今 い い と こ ろ な の に !
 邪魔されるのがついに嫌になった私は立ち上がり電気を消し、小さなデスクランプを点けた。するとベッドで寝ていた涼太ががばりと起き上がった。

「なんでそんな寂しいこと言うんスか!しかも暗い中で本読んだら目が悪くなるからダメ!」
「私は本が読みたいの!今いいところなの!涼太うるさい!」
「う、うるさ……」

 “うるさい”という言葉にショックを受けている涼太に追い打ちをかけるように、私は言葉を続けた。それほど私は今この本に夢中で、読書を続けたいのだ。

「青峰くんだったら絶対勝手に寝てて本読ませてくれたのに!」
「なんでそこで青峰っちが出てくんだよ!しかも青峰っちが先に寝るわけねぇし!」
「涼太と違って寝ます〜」
「あぁそーかもね、本なんてぶん投げて無理矢理ベッドに引きずり込んで“寝る”だろーね!」
「う……く、黒子くんならきっと私の気持ち理解してくれるもん!」
「あっそ、じゃあ黒子っちと付き合えば」
「な、なんでそういうこと言うの!?」
「先にそーいうこと言い出したのどっち」

 そう言って、涼太は私に背中を向けて再びベッドに横になってしまった。
 急に静かになった部屋と怒ってしまった涼太の背中に、急に不安になる。デスクランプの心もとない小さな灯りのせいで余計に寂しい気持ちが助長されてしまう。
 だって、だって今いいとこだったんだもん!本が読みたかっただけなのに!それなのに……────────

「りょーた」
「…………」

 名前を読んでも返事がない背中に「本が読みたいだけなのに」と心の中で呟いてみても、つい数秒前まで湧き上がっていた感情はどこにも見つからなくて、私はあっさりと握りしめていた本を手から落としてしまった。
 悔しい。この本すっごく面白かったのに。
 涼太のせいで────────そんな悔しい感情を涼太の背中にぶつけるようにベッドに潜り込めば、不機嫌そうな声が聞こえた。

「本が読みたいんじゃないの」
「もう読みたくなくなった」

 私も同じように不機嫌に返せば、振り返った涼太は勝ち誇ったように笑って私を抱き締めた。

「あの本なんかよりオレに夢中だもんね?」

 否定出来ないのが悔しい。でも絶対に肯定してやるもんか、と口を固く結んでいれば、私の固まった唇に涼太の柔らかい口付けが落ちた。


 シンデレラタイムは残り1時間半しかないけど、それまでに私を寝かせてくれる気があるんだよね?涼太くん。






20131203
2style.net