Sweet time with me? 2





 その後、恥ずかしいけれどやっぱり嬉しくて幸せな気持ちの方が勝る私は、リーマスの「誰もいないし見えてないよ」という言葉を信じてリーマスの膝に乗ってくっついたまま、リーマスのぬくもりを体全体で感じていた。そんな穏やかな時間を突然壊したのは、足音もなく現れたシリウスの驚いたような声。

「あっれ、なんで嬉しそうな顔してんの!」
「っシ、シリウス!」

 突然ソファの背もたれから覗き込むように顔を出したシリウスに驚いて私はリーマスの膝から降りようとしたのだけれど、腰に回されたリーマスの腕によってかなうことはなくそのままの状態でいるしかなかった。というか、私そんな顔にやけてたかな…!恥ずかしい、と両手で顔を覆おうとするも私の耳に入ったシリウスの次の発言に、その手は顔を覆う前にピタリと静止した。

「なんだ憂鬱にならなかったのか」
「…え?憂鬱?」
「効き目ねぇなー。一応これもやるよ」

 そう言ってシリウスが顔の手前で止まったままの私の手に握らせたのは、先ほどもらった青い飴とは反対の赤い飴だった。その飴を見て、嫌な予感がした。予感、というよりもまさにそうなのだろう。先ほど私が食べていたのは、シリウスからもらった青い飴。シリウスが言う効き目、というのはきっと…

「ちょっと、まさかさっきの飴って」
「いや、すぐこの飴渡しに来るつもりだったって!現にすぐ持ってきたろ!」
「そういう問題じゃない!さっき私が食べた飴、なんだったのよ!」
「ちょっと憂鬱になる飴っつうか…でもホラその赤い飴食えば戻るから!というかそもそも憂鬱になってねーんだからそんな怒るなよ、な?」
「憂鬱になったし!というかなんでそんなもの私にくれるのよ!」
「うるせー教授に食わせて授業なくそうと思って…そうなったらも嬉しいだろ?」
「私で試さないで自分で試しなさいよ!」

 急に憂鬱になるなんて絶対なんか変だなって思ってたら、シリウスのイタズラのせいだったなんて!ジェイムズとシリウスのイタズラのまとになることはたまーにあるけど、でもこんな実験台のようなイタズラってひどい!
 抗議の言葉を口にしようと、口を開いたのにもかかわらず私の口からはその言葉が出て来なかった。代わりにひんやりとしたリーマスの声が一言響いた。

「シリウス」
「「…………」」

 私が何か悪いことをしたわけじゃないのに、自分のすぐ横にあるリーマスの顔が見られない。きっとそこにある顔はこれでもかというほど穏やかな笑顔を浮かべているに違いない、違いないのに、その穏やかな笑顔が何よりも怖いということを私も、シリウスも嫌と言うほど良く知っていた。私もシリウスも体が硬直してしまい、お互いに目を合わせたまま動けなかった。シリウスはギギギ、と音がするんじゃないかと言うほどゆっくりと口を開き「おう」とだけ返事をした。リーマスを見ようともせず、ただ私の瞳を見つめてなんとかしろよという視線を送ってきていた。元はと言えば、悪いのはシリウスなのに、どうして私が!私だってリーマスのこの笑顔は怖いのに…!

にあげた青い飴、もうないの?」
「え?いや……な、いな」

 さりげなくポケットを触りながらぎこちなく答えるシリウスは何かを察知したようだった。

「まだ持ってるよね?」
「悪いがもう」
「ありがとう、僕も欲しかったんだ」

 わーーーーーお…。ポケットのかすかな膨らみから察するに、シリウスはまだあの青い飴を持ってるようだったけれど私と同じように嫌な予感がしたのか「ない」と答えたのにも関わらず、リーマスはそれを許してはくれないようだった。私は知らない、とばっちりは受けたくない、そう思ってシリウスからも目を背けようとしたけれど、それを薄情者とでも言いたげにシリウスは私に目で訴えてきた。だから、元はと言えばシリウスが悪いし、変にシリウスをかばったら私までこの笑顔の餌食になってしまう。リーマスはきっと私がシリウスにイタズラされたことに対して怒ってくれているのだろうから嬉しいことではあるんだけど…だけど、シリウスがちょっぴり可哀想に思えた私は助け舟を出すことにした。

「リーマス、私リーマスのミルクティーのおかげで元気になったし、シリウスもすぐに」
「シリウス早く」

 ごめん駄目だった。勇気を振り絞ってリーマスの顔を見て口を出してみたと言うのに、あっさりと船は沈まされてしまった。というか港から出航すら出来なかったんじゃないの、今の。私は大人しく状況を見守ることにした。シリウスも諦めたのかポケットから青い飴を5粒出してリーマスの手のひらに落とした。

「赤い飴は?」

 そして反対のポケットから、赤い飴も5粒出してリーマスに渡す。リーマスはその穏やかな笑顔で、この飴をどうするつもりなんだろう。そう思っていると、リーマスは私に手を出してと言ってきた。

「え、手?」
「うん、両手だして」
「こ、う?」

 手のひらを上に向けるようにしてリーマスに両手を差し出せば、私の手には先ほどシリウスからもらった赤い飴ひとつと、リーマスがシリウスから奪っ…もらった、赤い飴と青い飴がバラバラと乗せられた。何をするのかと見ていればリーマスは私の手のひらから赤い飴だけをとって包装をといていた。

「口開けて」
「え?」
「ホラ、あーんって」
「は、はい」

 私は大人しく、リーマスの言う通り口を開けた。シリウスも動くに動くことが出来ずにただただ私達を見ていた。何がなんだか分からず口を開けていれば、私の口の中に6つの赤い飴が放り込まれた。

「っ!?りー、ま」
「大丈夫、効力が6倍になったりとかはしないから安心して」

 にっこりと微笑むリーマスにそうじゃなくて、と言いたくても口の中の飴が邪魔して何も言えない。というかリーマスはこの飴のことを知っていたんだ。だったら、私が食べる前に止めてくれれば良かったのに…と思ったけれどリーマスが私の隣に来たのは私が飴を口に入れてからだったっけ。数十分前のことを思い出していると、今度は青い飴の包装もリーマスは全部ときはじめた。…まさか。私と同じように嫌な予感を確信へと変えたシリウスは本格的に慌てだしていた。逃げればいいのに、と思ったけれど逃げて倍恐ろし目に合ったのは確か先々週のことだったはず。それを覚えているシリウスは迂闊に逃げることも出来ず、リーマスをなだめる何かを考えているようだった。相変わらず私に目で訴えてくるけれど、私の口の中は飴だらけで喋ることも出来ない。やっぱり助けてあげることは出来ないみたい、ご愁傷様シリウス。自分のしたことは返ってくるってことで、私よりも5倍の憂鬱をどうぞ召しませ。

「リーマス!二人きりの時間を邪魔して悪かったな、俺はこれで」
「今更気付いたの?最初っから邪魔以外の何ものでもなかったよ、なんでいたの?」
に飴を…渡しに来たんだ、けど」
「あぁ、そうだったね」
「ほんと悪かった、もうこーいうことはしねぇから、じゃあ俺はこれで」
「待ってよ、せっかく飴くれに来たんだからお礼させて」
「は!?な、んでお礼…いやいや悪いのは俺だから礼なんていら」
「受け取ってくれるよね」
「お、おう」

 数歩下がっていたシリウスはそれ以上下がることが出来なくて、終わったと言いたげに首をもたげた。リーマスはくるりと杖を振って、青い飴5つを宙に浮かせシリウスの口元へと運んだ。

「はい、口あけて」
「……リーマスわっ」
「ちゃんと噛んでね」

 どうにか許してもらおうと思ったのかもう一度「悪かった」と言おうとシリウスの口にそれを遮るように青い飴5つが放り込まれた。リーマスが杖をもうひと振りするとシリウスが口を動かしていないのにも関わらずバリバリと飴が砕ける音が聞こえて、飴が口の中ではじけるように暴れているのかシリウスは眉間に皺を寄せて口元を押さえた。うわあ…痛そう、口の中切れちゃうんじゃないの。

「飴が無くなるまで口が開かないようになってるから、ちゃんと全部飲み込んでね」
「っんん゛」

 何か抗議したげなシリウスだったけれど、口も開かないしリーマスにあっちに行けと手を振られ肩を落としながら背を向けて男子寮への階段を上って行った。ちゃんとまだ赤い飴持ってるのかな。

「あ、でも別に5倍の効果があるわけじゃないのか」

 口の中の飴も溶けて、話せるようになった私はようやく口を開いた。5倍の効果があるわけじゃないなら、青い飴をひとつ食べて憂鬱になった私もすぐに元に戻ったから、きっとシリウスもすぐ元に戻るよね。そう思ったのに、リーマスの口から発せられたのはやっぱりシリウスご愁傷様な言葉。

「赤い飴は何個食べてもただ青い飴をリセットする効果しかないけど、青い飴は食べた分だけ効果があるんだよ」
「えっ…じゃあシリウス」
「シリウスが悪いよね、僕との二人の時間を邪魔するから」
「うん……え?」

 “僕との二人の時間を邪魔するから”?リーマスが怒ってくれていたのはそこ?私が憂鬱な気分になったから…ではなくて?

「ようやく邪魔犬が消えて良かったよ」
「リーマス、私が憂鬱になる飴を食べさせられたから怒ってくれたんじゃ…」
「うん?」

 リーマスはにっこりと笑って、私の体に回した手に力を入れた。え、あれ…今肯定じゃなくて疑問系だったよね?シリウスが来たことに怒ってたの?私が飴を食べさせられたことは…?

「リー、マス?私が飴を」
とこうしていられるのは幸せだね」

 つまりは。こうしていられるきっかけになった青い飴には怒っていない、ということなんでしょうか。なんだか微妙な気持ちになりながらも私は黙ってリーマスの胸に顔を寄せた。まあいっか、憂鬱なのはなくなったし二人きりだし、何の問題もないよね。なるべく早めにシリウスの憂鬱が解消されますように、と思いながら私はリーマスに返事をした。

「So do I」






20091231
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