Silly morning







 なんだか眉間の辺りがそわそわする、なんてはっきりした意識はないのだけれど、むずむずするような感覚を拭いたくて手を持ち上げると自分の額に触れる前に何か違うものにぶつかった。凛にぶつかっちゃったのかな、なんてまだ寝惚けている頭でぼんやり思っていると吹き出すような笑い声が聞こえて、私はゆっくりと瞼を持ち上げた。
 ぶつかって痛い、と言われるならまだしも、笑われるなんておかしい。

「……ハハッ」

 カーテン越しのやわらかな日差しに照らされながら、寝起きのくしゃくしゃな髪を直しもせず、前髪がゆらりゆらりと揺れている中で凛は目を細めていた。頬杖をつきながら、口元は楽しそうに弧を描いている。
 眩しい、そう感じるのは寝起きのせいじゃない気がした。

「なん……なにわらってるの?」
「どした?」
「ぇえ……?」

 質問したのは私の方なのに、凛は持ち上げていた私の手を握ってベットに下ろしながら逆に質問をし返してきた。
 なんだかよく分からない、と思いながらも私は眉間を寄せながら返事をした。
 手で擦れなかったせいで、まだむずむずする感覚が残っているような気がする。

「おでこが……」
「ッフ、」
「ねえ、なにわらってるの?」
「おでこが?」
「……なんかムズムズして目が覚めたの」

 私の返事を聞いて、結局凛は吹き出した。朝から何がそんなに面白いんだろう。
 まさか、私の顔になにかついてるんじゃないかと不安になり、凛に握られていない方の手で私はおでこを擦った。

「悪ぃ悪ぃ、なんもついてねーよ」

 私の考えを見透かしたように、凛は笑いながら握っていた手を離して今度はおでこを擦っていた私の手を握ってやめさせた。

「じゃあ、なんで笑ってるの?」
「お前が可愛いくてちょ〜っとイタズラしてただけ」
「えっ、やだ、なにしたの?」

 意地悪な笑みを浮かべて、凛は私の手を握りながら人差し指で触れているのかいないのか絶妙な距離感で私のおでこに触れた。
 その感覚に、私は夢の中から感じていたむず痒さを思い出した。

「あー、そうじゃねぇよ」

 むずむずしていたのは凛のせいだったのか、と思わず眉間に皺を寄せると凛は「違う違う」と笑った。

「んな眉間に皺寄せんじゃなくて、もっと間の抜けた感じのカワイイ顔してたんだよ」
「間抜けって……人の寝顔で遊ばないでよ」
「間抜けとは言ってねぇだろ」

 というか、恥ずかしいから寝顔なんてまじまじと見ないで欲しい。
 起き抜けの、くしゃくしゃの髪でも格好良い凛とは違うんだから。
 凛に掴まれていない方の手で苦し紛れに前髪を直すと、意地悪そうに笑っていた凛が、ふと柔らかく微笑んだ。

「だァから」

 本当に、いつから起きて私の寝顔を眺めていたんだろう。起き抜けの姿なのに、凛の意識はあまりにもはっきりとしていて次々と表情が変わる。
 優しい微笑みを浮かべている凛は、前髪を直していた私の手を握りそのままベッドに縫い付けるように覆いかぶさった。

「可愛い、って言ったろ?」
「……可愛いわけないじゃん」
「可愛いかったよ、まだまだ見てたかったくらい」

 そう言って、凛は私の眉間に唇を落とした。

「俺しか見らんねぇんだから、見てたっていいだろ?」

 むしろ寝起きの方が格好良いんじゃないかと思わされてしまうほどの凛に見つめられながら、私はもぞもぞと口を開いた。

「……だめ」

 こんな凛を見られるのも私だけなんだと考えると、間抜けな寝顔が対価だなんて凛は絶対に割りにあってない。でも、だからこそ、「いいよ」なんて言えない。
 凛もそれを分かってるくせに。

「なァ、」

 甘く強請るような声に、私は参ってしまう。

「もっかい見てーんだけど」

 もう、何がそんなに良かったんだろう。思い出して嬉しそうに笑われたって、寝ている時の自分の表情なんて分からないし、分かったところでもう一度見られたいなんて思えないのに。

ちゃん、ほぉーら、かわいー顔してみ?」
「も〜、わっかんないってば!」

 そうして私たちは、ふたりして吹き出すように笑い声をあげた。





 なんてことはない、1日のはじまり。
 幸せだなあ、と思った。






20210202
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