極限ダッシュで戻って恋





 いつもテンションおかしい感じだけど、今日はなんだかいつもに増しておかしくありません?



 放課後、鞄を掴み教室を出たところで右腕をつかまれ、大声で名前を呼ばれた。こんな近くにいるんだからそんな大声ださなくたって聞こえてるよボクシングバカ!なんて思いながら顔をあげるとそこには眉間に皺をよせた了平の顔。怒っている…わけではないと思うんだけど、なんだ、どうしたんだ。次の言葉を待っていても表情を変えずに黙ったままの了平に、しびれを切らしてあたしが口を開いた。

「どしたの?」
「何がだ!」
「何がって、声かけといて黙ってるんだもん」
「む」
「ボクシングの練習行かなくていいの?」
「極限!」
「へ?極限?」
「極限…」
「ボクシングバカ?」
「違う!俺はボクシング大バカだ!」
「否定するのそこですか」

 なんだか会話の流れがおかしい。まあ、いつもなんかおかしいけど。放課後になるやすっ飛んで練習に行くクセに、今日はどうしたっていうんだろう。引き止めておいて用件も言わないし、言いにくいことなのかな?でも了平ってまどろっこしいの極限嫌いなはず。じゃああれか、声かけた瞬間に話す内容忘れちゃったとか。ああ、これだ絶対。

「そーいうときは無理に思い出そうとしてもでてこないから、ほっときなさい」
「思い出す?」
「そ。たいしたことじゃないから忘れちゃったんだよ」
「何の話をしている?」
「え?声かけたけど用件忘れちゃったんじゃないの?」
「忘れてなどいない!俺の中でグツグツ燃えているぞ!」
「え、グツグツ?なにそれ」

 燃えているってことは、あの眉間の皺はやはり怒っていたということだったのだろうか。それとも不機嫌だった?でもそんなオーラ出てなかったと思うんだけど…。なんにせよ忘れてないんならなんでさっさと言わないの?ハテナマークを浮かべつつ了平の顔を見れば、あたしの腕を掴んでいる了平の手にぎゅう、と力が入った。あ、まだあたしの腕掴んでたんだ。

「俺は、極限!」
「うん」
「極限…!」
「……」
「きょ」
「わかったってば。極限の続きは?」

 極限、極限って、何回繰り返せば気がすむの。はっきりしない了平なんて珍しい。いや、ただ続きを言わないだけで言葉ははっきりはしているのだけれど。変なの、と思っていたら校内放送が流れた。「ボクシング部主将笹川、至急職員室顧問のところまで来るように」だそうだ。

「呼ばれてるよ?」
「いや、しかし」
「至急って言ってたよ、早くしないと。用事あるなら後でメールでも」
「ならん!」
「え?」
「待て、今言う!」
「え、あ、ハイ」

 と、待ってみても了平の口から言葉が漏れる様子はない。口は動いているのだけれど、声が出てこないのだ。なに、どうしちゃったの?職員室にも行かなきゃいけないのに、何をそんなにあたしに言いたいんだろうか。勢いに押されて待っているけれど、もう十分くらい立ってない?廊下でざわめいていた生徒達も、もう部活や帰宅でいなくなってしまった。

「何故だ!」
「え?何が?」
「声が出ん!」
「出てると思うけど」
「肝心の言いたいことが声にならぬのだ!」
「何を言いたいの?そんな重大なこと?」
「む、それを言えぬと言っているのにバカかお前は」
「バ カ は お 前 だ !もうとりあえず職員室行きなよ、先生待ってるし」
「言わずに職員室など行けん!」
「もーなに、今すぐ言いたいことなの?あたしに?」
「そうだ!」
「で、声にならないの?」
「そのようだな」

 一体何をあたしに言いたいのか。歯にノリついてるとか、髪形くずれてるとか、スカートめくれてるとか、そんなんじゃないよね?なんて思いながら確認してみるけれど、どうやらどれも違うようだった。しかもそんなこと、了平が言いずらそうにするわけがない。じゃあ他に言いづらいことってなに?了平にも言いづらいことなんてあったんだと関心しながらも声に出ないと言う了平の変わりに、了平の言いたいことを考えてみた。けれど、了平の考えていることなんてボクシング以外に思いつかない。

「わかった、じゃあ他の言葉に置き換えてみればいいんだよ」
「置き換える?」
「そ。その言葉だから言いづらいんであって、違う言葉で表現すれば言えるんじゃない?」
「なろほど、そうかもしれん!よし、やってみるぞ!」
「はいはい、どうぞ?」

 あたしの意見に納得したようで、他の言葉が見つかったのか思い切り息を吸い込んだ了平。やっと言いたいことが聞ける、と思ったと同時にそんな意気込んであたしは何を言われるのだろうかと少し身構えた。

!」
「うん?」
「極限愛している!」
「……へ?」
「おお、お前の言う通りだ!スッキリ言えたぞ!よし、じゃあ俺は職員室に行って来る!気をつけて帰れよ!」
「えっ、ちょ…ぇえ!?」

 了平は思い切り叫んだと思えばあたしの腕を放してニカッと笑い、職員室へと走って行ってしまった。取り残されたあたしは呆然と立ち尽くすしかなかった。なに、了平今なんて言ったの…?愛しているって言った?愛している? あ い し て い る ?あんなに声に出ないとか言いづらそうにしといて、愛しているって?あたしに?愛しているって!?

「なにそれ!?」

 ていうか、なんの言葉を置き換えたら「愛している」になったの!?

 色んな意味で私の心も頭もパンク寸前だった。うるさい心臓を手で押さえながらも頭を抱えたくて仕方が無かった。了平の思考回路が分からない。けど、言葉の意味は…

「気をつけてなんて帰れないし!戻って来い極限バカーーー!!」






20090406
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