LOVERS TRAP





※ヒロインの年齢設定はご自由にどうぞ!ヒロイン≠ちぃちゃんですが、同居設定になってます。










「あれ、珍しいね」

 リビングに足を踏み入れて、珍しい組み合わせの二人に私は思わず声を漏らした。
 ソファには横になっている風斗、そしてソファの前に座っているのはテレビのリモコンを持った侑介。リビングはケンカしている声が響いているわけでもなく、とても静かだった。まさか風斗と侑介が仲良くテレビを見ているだなんて。
 これから天気が荒れてくるんじゃないかと、思わず窓の外を見てしまった。

「おかえり」
「ただいま」
「何が珍しいって?」

 おかえり、と言う侑介の声に窓へ向けていた視線を戻せば、私を見上げる侑介の顔が右に小さく傾いた。
 私は二人に近付きながら笑った。

「侑介と風斗が仲良くテレビ見てるから驚いたの」
「あぁ、こいつ寝てんだよ」

 私の“珍しい”の言葉の意味を理解した途端、侑介は嫌そうに顔をしかめ、風斗の方へ顔を向けた。
 遠くからは気付かなかったけれど、確かに風斗は台本を読んでいる間に眠ってしまったのか、手に台本を抱えたまま気持ち良さそうに寝息を立てていた。私はそんな風斗を起こさないよう、ソファを背もたれにするようにそっと腰を下ろした。

「寝てるの起こさないなんて、優しいじゃんおにーちゃん」
「起こすとウルセーからほっといてるだけだ」

 からかうように声をかければ、侑介は唇を尖らせ私からぱっと顔を逸らしてしまった。少し耳が赤くなっているのを見て、すぐに照れ隠しなんだと気付いた私は笑いを堪えるように口元に手を当てた。

「ね、食べていい?」
「おう」

 テーブルの上にあるポテトチップスに手を伸ばせば、その横にあるDVDケースが目に入った。

「DVD借りて来たの?」
「ん、おぉ」

 メニュー画面で字幕や音声の設定をしていた侑介は私に生返事をした。ふたつめのポテトチップスを口に運びながら、侑介の横顔に再び問いかける。

「えっちなやつじゃないよね」
「っんな、んなワケねーだろ!?画面見えてんだろお前にも!!」

 ちょっとした冗談だと言うのに物凄い勢いで凄んでくる侑介に今度こそ私は笑いを堪えることが出来なかった。DVDケースに“新作・ホラー”と書いてあるのを見て分かっているというのに、画面を見ろと必死に指をさす侑介に笑いながら「分かったから」と返事をすれば、ぼそりと「こんなとこで見るわけねーだろ」と言われ私は笑いを引っ込めて白い目を向けた。

「うわあ……侑介クン、その一言ほんといらない」
「見ない奴の方がキモいっつうの!」
「はいはい、いいから早く再生してよ」
「見て怖くなって泣いてもしらねーからな」
「そんなんで泣きません〜」

 と言いつつ、この映画はここ最近CMで“全米絶叫No1!”とやたらと宣伝されていたやつだ。当然のことながら、映画が始まった途端黙りこむ侑介に私は少し心細くなっていた。まだ陽が出ている時間帯と言えど、静まり返った部屋でホラー映画を見るのは怖い。
 侑介何か話してくれればいいのに、と思いながら自分から話しかける話題を探していると、突然うなじの髪を分けるようににつ────と指が触れる感触がした。

「ひゃっ!」
「っな、なんだよ!?」

 まだ始まったばっかで何も出て来てねーぞ、と私が驚いた声を上げたことに驚いている侑介に、私は慌てて首を振った。
 おばけじゃない、私にこんな声を出させた犯人は予測出来ていた。

「なんでもない、勘違いしただけ」
「こえーなら違うの見るか?」
「大丈夫大丈夫、続き見よう」

 侑介の視線をテレビ画面に戻させてから、私はさっと顔を後ろに向けた。振り返って私を見ていた侑介が何も言ってこなかったということは、寝たフリをしているのだ。私を驚かせてくれた犯人である、風斗は。
 予想通り振り返ってみても、そこには瞼を下ろしている風斗の寝顔があるだけ。寝ている演技は随分上手になったんじゃない、なんて心の中で悪態をついていれば風斗の口元がくいっと上がった。
 ほら、やっぱり起きてる。
 それでも瞼を持ち上げようとしない風斗に、私は諦めて顔を元に戻した。
 少しずつ伏線を張り、恐怖への階段を少しずつ進める映画を見ながら風斗が寝たフリをしている理由を考えてみるものの、どうせいつものようにイタズラがしたいんだろうということしか分からなかった。風斗のおかげで映画の怖さが弱まったものの、起きているなら普通に一緒に映画を見ればいいのに。


 じわじわとBGMが盛り上がってくるのを聞いて、そろそろ絶叫ポイントが来るのだと予測した私は、恐怖に体を震わせてしまわないよう無意識に体に力を入れた。
 すると再び、先程髪を避けられたままのうなじに柔らかな感触がした。

「っな!あ─────」

 しかもまた、映画の驚くべきポイントではない。そして今度触れたのは風斗の指ではなく、唇だった。触れるだけならまだしも、あろうことか風斗はそのまま吸い付いたのだ。
 重ねるように驚いた声を上げた私に、再び驚いた侑介が振り返った瞬間、大きな音と共に画面いっぱいに恐怖映像が映し出され今度こそ私は悲鳴を上げて両手で顔を隠した。

「なんっ、お前どのポイントで驚いてんだよ!?」

 悲鳴を上げた私を見て更に驚いた侑介は、私と恐怖映像が続いている画面を交互に見て声を上げた。侑介は自分が気付かない画面に映し出されている“何か”に私が声を上げていたのだと思って驚いているみたいだけど、私が声を上げた“何か”は私のすぐ後ろにいるということに気付いて欲しい。気付かない、ということは風斗はまだ寝たフリを続けているのだ。

「違うのも借りてきてっからそっちにすっか?」
「違うのって?」
「ゴクドウの─────」
「これでいい」

 ちらりと振り返れば、やっぱり風斗は瞳を閉じたままだった。
 ゴクドウシリーズなんて見たくないし、かと言ってこのままじゃ落ち着いて映画も見ていられないし。
 私はソファから背を離し、膝歩きをしながら斜め前に座っていた侑介の隣に並んだ。これなら風斗のいたずらから逃げられて、映画の怖さも弱めることが出来る。

「な、なんで寄ってくんだよ」
「侑介が怖がってるから」
「こわかねーよ、悲鳴上げてんのオメーだろ!」
「私が声上げる度にビビッてんの侑介じゃん」
「何もねーとこで声出すから変なモン見えてんのかと思うだろ!」
「だからその見えてる“かもしれない”にビビッてる時点で怖がっ─────」
「うおぉっ!?」
「なに!?」

 話している途中で急に前屈みになり叫んだ侑介に驚いて体を強張らせれば、後ろから呑気な欠伸が聞こえた。恐る恐る顔を後ろに向ければ、ソファで寝たフリをしていた風斗が体を伸ばしていて、その足が侑介の背中に見事に当たっていた。
 つまり風斗は私が離れてしまったことが面白くなくて侑介を蹴って、侑介は突然蹴られた背中に驚いて声を上げた、と。
 侑介、やっぱり怖がってるのになんでわざわざこの映画借りて来たんだろう。風斗を起こさなかったのも優しさじゃなくて、ただ単にひとりで見るのが怖かったからなんじゃないかと思い始めて来た。

「あ〜よく寝た」
「テッメェ!!」
「ごっめ〜ん、足が長すぎて当たっちゃった?」
「わざとだろ!!」
「はぁ?ボク寝てたんですケド」
「わざとじゃねーのにあんな力入れて足伸ばすわきゃねーだろ!」
「ホラー映画にビビッて情けない声出したのをボクのせいにしないでくれる?」
「ビビッてねぇし!」
「あ、そ。じゃあひとりで見なよ」

 風斗は台本を持って立ち上がり、私の手を掴んで立ち上がらせた。

「え、風斗どこ行くの?」
はボクと部屋で一緒に映画を見るの」

 手を引かれるがままついて行くものの、怖がっていた侑介をひとりにしてしまうのは可哀想なんじゃないかと思っていると、風斗は勝ち誇ったような顔をして侑介を振り返った。

「“えっちなやつ”、ね」
「 「 っな 」 」

 私と侑介の驚いた声が重なった後、風斗は楽しそうに笑い侑介は「テメェ最初っから起きてたな!?」と叫んでいた。
 叫ばなかったものの、私も内心侑介と同じ意見だった。















「悲鳴を上げちゃうくらいこわいのでもいいけど、どうする?」

 手を繋いだまま廊下を歩いていると、年相応ないたずらっぽい笑顔を浮かべて顔を覗き込んでくる風斗に私は口籠りながら、もごもごと唇を動かした。

「こわいのはやだ」
「じゃあ、たっぷり可愛いがってあげる」

 そう言って唇を重ねた風斗の、つい一瞬前とは違う大人っぽい瞳にくらくらとしてしまう。

「でも、ボクから逃げてあのバカに近付いたお仕置きはしなきゃね?」

 急に手を握る力が強まり、歩く速度も上がる。





 やっぱり、私は彼から逃れられないのだ。






20140517
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