紅い葉が落ちれば暦は今年最後の月になった。
 山奥のホグワーツにはどっさり綿雪が降って、寒さは一層増した。
 寒さが苦手な私はマフラーをぐるぐると巻きつけて、冷たい石壁に触れないように城を歩くのだった。

 魔法界にも幅をきかせているらしいキリスト教は雪と同時に一気に城内の雰囲気を変えた。
 大広間に飾られた大きなツリーに、赤や緑や金銀の飾り達。
 きっと私がもっと健やかな人間だったら、この景色や空気を幸せに眺める事が出来るのだろう。
 残念ながら、私にとって、クリスマス休暇までの一ヶ月は周りが盛り上がれば盛り上がるほど憂鬱な時期だった。


 朝食の席で届いたフクロウ便は、母からの手紙だった。
 クリスマス休暇は毎年帰る事にしているから、その確認も含めて、この時期になると母が知らせをくれるのだ。
 手紙と一緒になって銀色のものが机上にぽとりと落ちて転がった。
 花の飾りのついた髪留めだった。お母さんが一緒に送ったのだろうか。珍しい事もあるものだ。
 柔らかい手触りのそれは細かい装飾がされた美しいもので、不自然な事が無いところを見ると、マグル製のものだろうかと推測した。


「やあ、お嬢さんがた」

手紙を読みながら朝食を食べていると、ジェームズポッターが爽やかに挨拶しにやってきた。
何か嫌な予感がすると察したのか、リリー含め皆で目配せしあって眉間に皺を寄せた。

「今日は何が変わったかみんなわかるかな?」
「あ、はいはーい。ジェームズの寝癖の位置!」
「ふ。違う違う。これ寝癖じゃないから」

 元気よく相手してあげているのはリオナだけで、サリーとリリーは黙々と食事を取っていた。
 この季節だし、彼がリリーに熱心なのは衆知の事で、きっとクリスマスイヴのダンスパーティに彼女を誘いに来たのだろうと誰もが予想した。
 当のリリーは知ってか知らずか、澄まし顔でジェームズの話を無視して朝食を黙々と食べている。
 私、おそらく関係ないし、聞かなくてもいいかな、手紙の続きが読みたいのだけれど。

「皆わからないの? 月が変わったよ。11月から12月にね」
「あー、そっかー」

 リオナの期待してた答えじゃなかったらしく、残念そうに言ってスコーンにジャムを付けた。
 母がくれた手紙の中には、マグルの写真機で撮ったらしい写真が入っていた。
 ツルツルした紙に映った家族は、動いたりはしないけれど、みんな笑顔で幸せそうな瞬間がそこに焼きついている。

「勿体ぶってないで、本題を言ったら?」

サリーが苛ついた口調でジェームズに言う。ジェームズはその言葉に咳払いをすると、かしこまって話を切り出した。

「クリスマスイヴのお相手はみなさんお決まりかな?」

あー、やっぱり、という声が聞こえてきそうな空気が流れる。
その時、残りの仕掛け人達が怪訝な顔をしてやってきた。これから朝食がはじまるらしい。
母の手紙は3枚に及んでいた。いつも通り、一家の日常が綴られているみたいだ。特に変わったことは無さそうで何より。
こんな季節早く通り越して、早く家に帰りたいな。

「ご提案ですが、君たちは四人組、僕たちも四人組……言いたいことわかる?」
「おいジェームズ何言ってんだよ」

 彼の話は男性陣も初耳のようで、ブラックとペティグリューは驚いている。
 ブラックはあからさまに迷惑そうな顔をしているし、ペティグリューは顔を赤くして目を泳がせていた。
 

「いいじゃん、どうせシリウスまだ相手決めてないんだろ」
「だからってお前、勝手に…」

 リーマスはこの話にどんな反応をしているだろうと盗み見ようとすると、彼を見る前にシリウス・ブラックの恐ろしい瞳とぶつかって、思わず視線を手紙に戻した。
 私がただジェームズ・ポッターの気まぐれな発言に巻き込まれただけで、偶然彼女たちと一緒に居たから誘われているという事実はよく理解しているつもりだ。
 そうでなければ、こんな私などを誘うヤツは居ないだろう。

「お互い身長も大中小揃ってるし、丁度いいだろ? 悪い話じゃないと思うけどどう?お嬢様方」

「「お断りします」」
「のったー!」

リリーとサリーはクールに答えたが、最近失恋したばかりのリオナは元気よく手を挙げた。

「リオナ」
「えー、だって確かに相手いないし」

リオナらしい答えだと思って私は笑った。それでも、サリーが目で叱りつけると、口をとがらせながらも挙げた手を降ろした。

「悪いけど、他当たってちょうだい。先約ある人も居るし」
「先約か。それなら仕方ないな。もし気が変わったらいつでも言ってよ。大歓迎だから」

ジェームズは主にリリーに向かって話すと、大人しく朝食の席についた。

 今日の朝食はなんだか異様な景色だ。私たち4人の隣に仕掛け人の4人が座って食べている。
 この二組の間には大きく隔たりがあるようにも見えるが、私の中では今までよりは少し距離が近づいていた。
 リーマスは私と対角の席に座っている。一番遠いところに居る。
 彼はジェームズの提案に何も言わなかった。
 もし、皆がオッケーサインを出していたら、リーマスとダンスパーティに行くことになったのだろうか。

 ふと前に座るリオナとサリーが、眉根を寄せて顔を見合わせていた。
 どうかしたのだろうかと様子を伺っていると、突然サリーが隣のシリウスの机をドンと叩いた。

「ちょ、ちょっと、何しれっと隣座ってんのよ」
「は?」
「そ、そうだ!そうだ!」

 突然何か不満でもあったのか、訴えだしたサリーとそれに同調するリオナ。
 私は隣のリリーと目配せしあって頭に疑問符を打ち出した。

「あなたたちと隣に座って食べるなんてご飯がまずくなるわぁ」
「そうだ、そうだー!」
「え、は、今更じゃね……」

 確かに食事は随分進んでいたし、シリウス・ブラックの言いたいことも周りが困惑気味なのもよくわかる。
 更に不自然なのは、二人の言い方がとてもウソっぽいということだった。

「とにかく、ここには座ってらんないわね」
「そうだね」
「なんかよくわかんないけど、僕達場所を変えたほうがいい?」

 そう言って立ち上がりかけたジェームズ・ポッターを、今度は二人が制止した。

「そんな、それは悪いって、ね」
「座って座って!」
「え、でも僕らが嫌なんじゃ……」
「いや、まあそうなんだけど、でもそれじゃ意味ないから」
「どういうこと?」

「まぁまぁ、じゃあ、リリー、場所変えよ!」

 と、非常に不自然な形で朝食の席は変わり、一番奥の席で残りの食事をとることになった。




「……それで、さっきのなんだったの?」

 朝食の帰りに立ち寄ったトイレの中でリリーが真っ先に口をひらいた。
 それは私も聞きたいところだった。
 なんとなく今は何も聞かないほうがいいのだろうと思って大広間では何も聞かなかったけれど、リリーは終に口を開いた。

「あー。ごめん。ほら、あれよあれ」
「あれって?」
「あ、あの、元カレ!私の元カレが近くに来てたから、遠くに座りたかったっていうか」
「そうそう」

 しどろもどろで応える二人を訝しげな目で見るリリー。

「でも、残念だなぁ、シリウス・ブラックと踊れるチャンスだったのにー」

 ごまかすようにリオナは話を変えた。

「リオナ、ブラックのこと好きだったっけ」
「別に。でもハンサムだし。きっといい見せびらかしになるかなと思って!」
「元彼に見せつけたいのね」

 ……女って恐ろしい事を考えるんだな。

「だって、きっとあいつ彼女連れてくるんだよ!むかっつく!」

 リオナはきっとそんな事しなくたって次のいい人が見つかるに決まっている。
 眩しそうに笑う目とか、かわいい性格とか、大きな胸とか……女の私にはそんな魅力しか思い浮かばないけど、男の子からみても魅力的な所はいっぱいあるはずだ。
 その証拠に、他の人にも告白されているのに、彼女は元彼に一途にしているのだ。

「気持ちはわかるけど、ブラックは後が怖いわ。それに、リリーも居るしね」

 それに、サリーは細身で背が高くて綺麗な長い髪をしていてモデルのようだ。
 ちなみに、先約がある人というのはサリーの話だ。
 去年のパーティでのサリーを見ていた上級生が早めに予約をとっておこうと申し込んだらしい(リオナ予想)。
 誰でもいいやと思っていたサリーはあっさりOKしたようだ。

「私の事は気にしないでいいのよリオナ。私、今年はと一緒に帰省しようかしら」

 人生に疲れたようにため息を吐く姿も、ジェームズが見たらきっと妖精のため息のようなのだろう。
 リリーは燃えるような赤い髪に透き通るような白い肌の美人だ。
 しっかりもので正義感が強くて、いつも正々堂々としている。
 ジェームズ・ポッターが惚れているのもよく解るけれど、彼女はあまり彼らを快く思っていないようだ。

 それに比べて……。

 彼女らと並んで鏡に写った自分の姿を見てため息を付いた。
 ちんちくりんのおかっぱ頭はまるで市松人形のようだ。これじゃ新入生に間違えられるのも仕方ない。
 同じ十五歳なのになんでこんなにも成長が違うのだろうか。
 私が日本人だから? それにしても、私は稚すぎないだろうか。

 クリスマスパーティをリーマスと、なんて一瞬でも考えていた自分が馬鹿みたいだった。
 こんな私が誰かと並べるわけがない。
 リーマスだけじゃない。ペティグリューにだってお断りされてしまうだろう。


 ああ、だからか。と自分で自分を納得した。
 クリスマスのダンスパーティはホグワーツに珍しいカップルのお祭り見たいなものだから、私は憂鬱になるのだ。
 この体の劣等感が、気持ちを卑屈にさせている。

(2016/2/7)
  

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