昼食のあとは図書館で過ごすことにした。
図書館が一番涼しくて静かで落ち着く。
人はいつもより若干多いだけで他に変わりはない。
日本から持ってきた本を読もうと4,5冊図書館に持ち込んだが、図書館に面白そうな本を見つけたので午後はずっとその本を読んでいた。


気づいたときには夕食の時間を15分ほど過ぎていた。
急いで貸し出しをすませ、本をかかえて寮に駆け込む。
流石にもう誰もいないと思いきや、なんと5人程まだ談話室に残っていた。
談話室に入るやいなや何か言い合いをしている声が聞こえた。

「休み明け早々問題を起こす気でしょう!?」
「問題なんかおこしやしないよ。絶対誰にも気づかれなければいいんだ」
「既に私に気づかれてるじゃない!」
「…それは、返す言葉が見つからないね」

あの悪戯仕掛け人と、リリー・エバンズだった。
リリーが仁王立ちでポッターと向かい合っている。
とても気まずいところに来てしまったと後悔した。

私が彼女たちの剣幕に棒立ちになっていると、ブラックが私に気づいたようでギロリと睨んできた。

「おい、お前堂々と立ち聞きかよ」
「えっ…いや、ご、ごめんそんなつもりじゃ…」
「じゃあさっさと行けよ」
「う、うん」

ブラックは相当機嫌が悪いようだ。
私は機嫌をとるようにごめんごめんと何度も呟いて彼らのそばを通り過ぎようとした。
心臓がいつになく活発に動いている。

「ブラック!そんなきつい言い方ないでしょう!?は何も悪くないわ」
「なんなんだよ、じゃあなんて言えばいいの?すみませんが立ち聞きはよしてもらえますかねえ!?」
「なんにもなおってないわよ!」

私のことで言い争う2人になんだか立ち去れなくなってしまって、私はおろおろと2人を見比べた。
そんな私に気づいたようでポッターがにこやかに話しかけてきた。

「ごめんね、この2人の事は気にしなくて良いから。さ、夕食に行ってきなよ」
「お前が言うなジェームズ!元はといえばお前が…」
「おいおい、僕が愛しのリリーに思わず口を滑らしたって言いたいのかい?そんな事あるわけないだろ。僕が喋ってた近くに彼女が居た、それだけさ」
「それはお前がこの女に言ったってのと何が違うんだよ!」
「この女?おいパッドフット口を慎めよ」

なんだか話がややこしくなってきている。
私はいがみ合う彼らの横をそろそろと通り抜けて女子寮の階段に足をかけた。
そこからまた彼らを盗み見ると3人はまだ言い合いを続けていて、その近くの椅子にルーピンとペティグリュが静かに腰をかけているのがみえた。
ルーピンは無関心そうに本を読んで、ペティグリュはそわそわとあたりをキョロキョロしている。
そしてそのくりくりした目が私の視線とふいにぶつかった。
私は急いで目を逸らして女子寮の階段を駆け上った。

ああ、なんてことだ。

また彼らと出くわしてしまった…。




すぐに降りていってはまたあの人たちに出くわしてしまう。
どうしようかと誰もいない部屋をうろうろとしていた。
また少ししたら行ってみよう。

持っていた本をベッドの上に投げ出した。
5冊の本がベッドの上で弾んで散らばった。
狼と月の表紙が目に入った。
そういえば読もうと思って忘れていた。
もう一度手にとってページをパラパラとめくる。
挿絵の多い本だ。それなりに厚さはあるけど字も大きいしそんなに長い話じゃない。
けれども当時10歳だった私には長編小説のようにも思えていた。

ページをめくる手をふと止めた。
私の大好きだったシーンの挿絵だ。

狼が少女に恋する瞬間…

月明かりの中で無邪気に笑う少女の姿を、狼は暗い森の影からこっそりとのぞき見ている。


トントン、


その時、誰かが部屋の戸をノックした。
私ははっと顔を上げ、急いで戸を開けた。
そこには赤い髪の少女、リリーが立っていた。

「さっきはごめんなさい、…」
「ううんっ。全然いいよっ、大変だね、リリーも」
「まあね。夕飯まだでしょ?一緒にいきましょ」

リリーは申し訳なさそうに苦笑いしてそう言った。

「あ、うん!ちょっと待って、本置いてくる」

私は持っていた『月と狼』をリリーに見せて部屋の中に置いてこようと思ったが、リリーに引き留められた。

「あ!その本、なんか見たことあるわ…。なんだったかしら」

そう言えばリリーにもこの本の翻訳をしている時に見せたような気がする。
5年も前の事だからもうほとんど忘れてしまっているだろう。

「あ、これ、1年の時に私が翻訳してたヤツなんだ」
「ああ!そうそう、確か狼が少女に恋するお話ね。素敵だったわ」
「覚えてる?懐かしくて読んでたんだ」
「私にもちょっと見せてくれるかしら。夕飯食べながら」
「うん、もちろん」

私はその本を持ったままリリーと談話室に降りた。
そこにはもう仕掛け人はおらず、私とリリーの2人だけだった。

「とてもいい話だと思ったわ」
「ほんと?リオナはいやだーって言ってたよ」

物語に感情移入しすぎるリオナは顔をぐっちゃにして喚いていたのを思い出してぷっと吹き出した。
リリーもそれを想像したのかくすくす笑った。

「悲恋ものだものね」




大広間にはまだ人がちらほら居た。
もちろん仕掛け人達は来たばかりのようでまだ夕食中だった。
私は奥の方にリオナ達が居ることに気が付いた。

「はーいエヴァンズ!一緒に食べない?」

そう声をかけてきたのはポッターだった。
リリーはツンとした態度でポッターを無視して通り過ぎた。
仕掛け人たちの視線がこっちに向いている。
私は彼らとリリーを見比べながら、ずんずん進んでいくリリーの後ろに縮こまってついて行った。

「…す、すごいね、リリー。さっきまであんなに喧嘩してたのに」

声を殺してリリーにささやく。
リリーはむすっとした顔でただ

「バカなだけでしょ」

と言っただけだった。


ポッターがリリーを好きなことは有名だ。
そしてリリーがポッターの事を嫌っていることも。

届かぬ思い。これも悲恋。
それでも、この本の狼ほど悲しい恋じゃなさそうだ。
ポッターというだけで喜劇…なんて言ったら、ポッターに怒られるかな。

(2010/1/3)
  
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