そんな私の不安とは裏腹に、翌日からの日常はいたって普通だった。
カーテンから差し込む朝日で目覚めて、ルームメイトにあいさつする。
着替えをすませて談話室に降りた。
私はだいたい仲の良いルームメイト2人と共に行動をしていて、それがまたマイペース集団なものだから、この時にはもうだいたいの生徒は大広間に移動をしていて静かだ。
急ぐわけもなく私たちは大広間に向かい、適当に空いている席に着いた。

その間私はあの目立つ4人組の姿を探していた。
非常に挙動不審な私に気づいた2人が聞いてきた。
私は素直に昨日の出来事を話した。

「えっー!ほんと?そうなら危ないねっ」

なんとなく楽しげに言うのがリオナ

「ははは!大丈夫だよ。あの仕掛け人たちがの事なんか気にかけないよ」

そう笑い飛ばしたのがサリーだった。
それはそれで悲しい。しかし彼女の言う事はどういうことか当たってしまう。

「でっでもさあ…」

そんなサリーがそう言おうと私の不安はまだ渦をまいていた。

大広間に入るとそこはおいしそうな朝食の匂いとにぎやかな話し声で満ちていた。
私はグリフィンドールの机を真っ先に見て、そして彼らの姿を確認した。
あの有名な4人組は長机の入り口に近い方に座っていた。
胸がドキリとする。

「ね、ねー今日はハッフルパフの机で食べない?」
「えーやだよー」
「そんな心配しなくても大丈夫よ…」

素直に嫌がるリオナと呆れるサリーについてしぶしぶ私はグリフィンドールの席に向かった。
彼らの側を通り過ぎる瞬間、私はとっさにハッフルパフ寮の方を向いて誰とも目が合わないようにした。
なんとか離れた席に着席すると、私は無意識に止めていた呼吸を再開して安堵のため息を漏らした。

「ほら、大丈夫じゃない」

サリーが言った。どうやらその様だ。
しかし私は様子が気になって、ちらりと4人組の方を盗み見た。
私になどこれっぽちも気づいていない様子で朝食の時間を賑やかに過ごしている。
特に騒がしいのはポッターとブラックでなにやらもめているようだが仲良しそうだ。
その向かいであのルーピンとペティグリューが穏やかにスープを飲んでいる。


それはなんでもない朝だった。



とても嬉しいことだったけれども…



なんだか少し、残念だとも思っている自分もいた。












なんでもない金曜日が過ぎて、夏休みが開けてはじめての休日を迎えた。
日は長く暑い。ほとんどの生徒は外で過ごしている。
クィディッチをしたり、芝生で遊んだり、湖に足をひたしたりと中庭はとてもにぎわっていた。

私といえば、外は日が当たって逆に暑いと考え室内に引きこもっていた。
家から持ってきて手つかずだった本を鞄から出し部屋に並べる。
題名は英語のと日本語両方がごちゃまぜになっている。
これらは全てマグルの本だ。
私はどちらかといえば魔法使いが書いた物語よりマグルが書いた物語の方が好きだ。
マグルの書く物語は繊細で幻想的で且つ現実的。
…まあ、そんな偉そうに言えるほど文学に詳しいわけではないから、そんな事は誰にも語ったことはないけれど。

鞄から最後の一冊を取り出した。
“月と狼”
黒い表紙に白い文字でそうつづられていた。文字は日本語だ。
文字の下には月を見上げる狼の白いシルエットが浮かんでいる。
この本、持ってきたんだっけ。

この本は私がホグワーツで暮らすための英語の勉強に最初に使った本だった。
一字一字英訳したのを覚えている。
すっかりハードカバーの角は丸くなってページも少し黄ばんでいるように思った。
懐かしく思って私は表紙を開いた。


ー。なにしてんの?」

1ページも読まないうちに部屋にリオナがやってきた。
ベッドに寄りかかって本を読んでいる私をのぞき込むようにして柔らかい笑みをにこりと向けた。

「本の整理」
「それで読書はじめちゃったのー?意味無いじゃん」
「この本、懐かしくって」
「あー!それ、覚えてるよ。が訳してくれたヤツ。その話いやだー」
「えーなんで?」

表紙を見てリオナは嘆くように言った。

「だって悲しい終わり方だったんだもん…。そんなのやだー」

リオナは悲恋ものが大嫌いで、逆にラブコメが大好きだ。
というのも、今リオナの恋愛が順調の証だ。
不調の場合はとにかく悲恋ものばかり読みたがる。

「それより、お昼いこー。もう12時過ぎてるよ?」
「え、嘘?」

時計を見れば確かに針は12時過ぎを指していた。
本の整理だけでずいぶんと時間を費やしてしまったようだ。

(2010/1/2)
  
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