夏が過ぎて新しい学年になったのに、新しくなったのはそれだけのようだった。
ホグワーツはいつもみたいに古くて生徒は騒がしい。
新入生はみんな緊張した面持ちで毎日を過ごして居るみたいだ。

私と言えば、そんな緊張はもう5年にもなってあるわけがない。
いつものように就寝時間ぎりぎりまで図書館でだらだらと本を読んでいた。
別に勉強熱心というわけではない。ただ本を読むことが好きだった。
外の喧噪を眺めるのも友達と騒ぐのも好きだったけど、静かに本を読んでゆっくりと過ごすことが一番好きだった。

はっと時計を見るともうあと3分で就寝時間だ。
あわてて本を片づけて司書の元に持って行った。
就寝時間を過ぎて寮に戻れば監督生に減点されてしまう。
見逃してくれる監督生ももちろんいるが、そういう真面目な監督生がグリフィンドールに1人は居るのだ。
3冊の本をかかえて図書館からとびだしてふと足をとめた。

ああ、そういえば…

その真面目な監督生ももうこのホグワーツにはいない。
優しくてちょっと厳しかった、あの人はもういないのだ。

成績もよかったしきっと立派な職業に就いていることだろう。
そう思うと胸がきゅっと絞められるようだった。
あんなに大好きだったのに、もう見ることさえできないのか…。

寮まで走っていく気力がすっかり失せた私は、小さくため息をついてとぼとぼ歩いて寮に向かった。

もう就寝時間は5分ほど過ぎているだろう。
走っていたら間に合ったかもしれないけど、どうせ減点するような真面目な監督生はいないだろう。
あの人は自分の寮に厳しかった。
それ故嫌う人も居たけど…あの人は誠実で優しい人だって私は知っていた。
そういえば、今年は私の学年からも監督生が出るはずだ。
一体誰になったんだっけ。紹介されていた気がするけどよく覚えていない。
確か…

太ったレディを前にして私はぼーっと考えていた。
機嫌が良いらしいレディは私の遅刻を咎めることなくすんなり通してくれた。
短い通路を過ぎて談話室に入ると、すでに消灯されていて真っ暗闇だった。
やっぱり、誰も居ないらしい。
当然といえば当然か…

「…グリフィンドール1点減点」

ふいに、暗闇の中から声が聞こえた。
耳を疑った。そんな、いるわけがない。もうあの人は卒業して…
意志とは関係なく高鳴る胸もおさえず私は暗闇に目をこらした。

奥のソファから人影が立ち上がる気配を感じた。
無意識に私の足はその人影に向かっていた。

「なんで…っ!?」


その時、ぱっと辺りが明るくなった。
一瞬目がくらんで視界が真っ白になった。
どうやらその人が杖に灯りをともしたらしい。
その光に浮かび上がった顔は、私の想像した顔ではなかった。

「なんでって、そういう決まりだからね」

青白い顔色をしたその人はは死んだ虫でも見るかのように私を見ている。

「何笑ってるんだい?君で最後だから、早くベッドに戻りなよ」

言われてはじめて、自分が笑顔を貼り付けたまま固まっているのに気が付いた。
顔がカーッと熱くなった。きっと真っ赤になってるだろうけど暗闇だから彼には見えていないことを祈る。

「あ…ご、ごめん!」

わたわたして彼に背を向けて階段に向かった。急いで階段を駆け上る。
は、恥ずかしい…!
なんてところを見られてしまったんだ!
踊り場で足をとめて談話室を見下ろすと、監督生の彼はけだるそうに階段に足をかけているところだった。



…そういえばそうだった。
私たちの学年の監督生は、リーマス・ルーピンだった。
5年も同じクラスなのだから一回も喋った事がないわけではない。
偶然隣の席になった事ぐらいあったと思う。
それでも、会話といえる会話はなかった。今日がはじめてあんなに長く話した。

リーマス・ルーピンはグリフィンドール…いや、ホグワーツ内で今最も目立つ4人グループの一人だ。
知らない人は少ないほどのやんちゃぶりで入学当初から全校の視線を集めていた。
その仕業ほとんどは有名な純血一族のシリウス・ブラックと文武両道のジェームズ・ポッターだが、
その2人といつも一緒にいるリーマス・ルーピンやピーター・ペティグリューも当然有名というわけだ。

ブラックやポッターの所業は無意味なものも多くたちが悪いから彼らはあまり好きじゃない。
私は影の薄さからかターゲットにされたことは一度もなかったが、悪戯された知り合いが大変憤慨していたのを覚えている。
きっと彼らには校内に敵がわんさかいることだろう。
だれにでもいい顔をしている私には気が知れない生き方だ。


あの時、リーマス・ルーピンはとても不機嫌そうだった。
そりゃそうだ。一人で私を待っていたのだから。
リーマス・ルーピンからブラックやポッターに私のことが知れて、悪戯のターゲットになったらどうしよう。

そうなったら私の平穏は泡のように消えていくに違いない…。

(2009/1/30)
 
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