目指せ仲良し奮闘記 後編



ズーン…



「旦那、カビ生えるから台所で暗くなるのやめてよ」


その日の夜の武田家厨房、亡霊の如くやってきて体育座りで部屋の湿度を上げる幸村に佐助が声をかけた。
幸村は佐助の話を無視して隅っこで丸まりながら言った。


「どうすればいいのかさっぱりわからん…」
「まだ仲良くなるって決めて1日じゃん。そんなに早く友情ってできないって」
「しかし、一日でも早くお館さまへの嘘をどうにかしなければ」

カチャカチャ皿を洗いながら、佐助は幸村の言葉にため息を吐く。



「旦那は嘘をなくしたいのか、仲良くなりたいのか、どっちなんだよ?」
「それはっ…お館さまに決まってるだろう!」
「ふーん?」

幸村がまた膝を抱えなおした。
そして今の言葉に言い訳がましく付け加える。

「そりゃぁ、仲良くなりたいのは少しはあるが…」
「ああ、そう」
「佐助っ、少しは真面目に聞け!」
「はいはい聞いてるよ」
「佐助はいつもっ…」

幸村が佐助に言い返そうとしたとき、ふいに女の子の声が後ろから聞こえてきた。

「失礼しまーす」
「あ、ちゃん」
殿!?」
「あれ、幸村も居るんだね」

普段見慣れない人物が台所に居たものだから、は不思議そうに幸村を見たがすぐに目をそらして佐助を見た。

「お弁当いただきました」
「はいよー」
「明日は私も手伝いますから」
「いいっていいって」
「いや、でもやっぱり申し訳ないですしね」
「そう?」

仲良さそうに話す2人に幸村は見入っていた。
あんな風に殿が楽しそうに話すのを見たことがない。
俺はあんな風に笑いかけて貰ったことがない。
笑いかけてもらったとしても、何故か額などに汗が付いている。
よく言われるが俺はそんなに熱いのだろうか。(そうじゃない)


「あ、そうだ。洗濯物たたむの忘れてた」
「えっじゃあ私が…」
「いいよ。俺が行く」
「でも」
「その代わり皿洗い代わってもらえる?」
「あ、はい」
「あー。じゃあ旦那も突っ立ってないでちゃん手伝ってあげてね」

去り際、佐に肩を叩かれいきなり2人きりになったのを幸村は悟った。

「……」

少しの間、は幸村を見ていたが微動だにしない幸村を見ると、一人で皿洗いを始めた。
腕まくりをするにはっとして幸村はに歩み寄った。

殿、そ某も手伝うぞ!」
「う、うん」

勢いよく腕まくりをするとスポンジを鷲づかみした。
中学の調理実習以来皿洗いは一度もしてなかったはずだが、そんな事を考えているほど幸村に余裕があるわけがない。
2人きりという状況に頭がくるくるぱーになりながらもぎこちない笑みを浮かべて皿を見る。

「じゃあ、私泡流すね」
「うむ!」

幸村が流しに重なっている皿を一つ乱暴に引っ張り出してスポンジを押しつけた。
一枚一枚、次々と汚れを落としていく。
幸村のだんだんと手が早まっていくのがにはわかった。

「おりゃあ!」

力一杯さらにスポンジを押しつけて幸村は皿を洗う。
その姿を危なっかしそうに見ていただったが何も言わない。
というか言えない。

「おりああっおりゃおりゃおりゃ…!お館さまぁあああ!」
「…ゆ、幸村」

叫ぶ必要がどこにあるのだろうか。お館様が一体どうしたんだ。
まあ…いつもの事なのかな?は幸村がばしゃばしゃ飛ばす泡を顔に受けながら呑気に思った。
やけに張り切る幸村の手は力強くしかし俊敏に動く。
しかし乱暴すぎやしないか。皿割れないかな?
口を出せずにいるは冷や汗流しながら積み上がっていく皿の泡を流すだけ。




「おるぁぁっおっりゃぁあお……あ。」

パリーン

ついに恐れていた事態に発展してしまった。
洗った皿をのところに置こうとしたら、皿は幸村の手を滑り抜けて壁に激突。
凄まじい音を立てて粉々に砕け床に散らばった。

「ささささささ皿がぁぁあっ」
「や、やっぱり…」
「どどどうすれば!?佐助っ佐助ぇ!
「ちょ、落ち着いて幸村!まず片づけようよ」

が食器棚に掛けてあったほうきとちり取りを持ってきて皿の破片を集める。
皿の破片がホコリと一緒に集まるのを幸村はしゃがんで眺めている。

「…済まぬ」
「ううん。いいよ、ほうきぐらい」
「迷惑をかけるつもりでは無かったのだが…」
「迷惑って大袈裟だなぁ。大丈夫だって」

皿の破片を見つめしょんぼりする幸村。
同い年のはずだがその幸村の表情がやけに幼くの目に映った。
お皿割ってびくびくしてる姿はまるで小学生だ。
幸村の頭をぽんぽんと慰めるように叩いても腰を上げた。

「さぁ、あと少しだし。早く洗っちゃおう」
「そ、そうだな」



今度は静かに皿洗いが始まった。
さっきがやけに煩かったからか無言の時間がやけに寂しく感じる。

「皿が終わったぞ」
「本当?じゃあフキンでお皿拭いてくれる?」
「りょ、了解した」

了解って。
幸村は無言で干してあったフキンを持って水切りの中の皿を一枚取って水を拭い取る。
はまだ皿の泡をゆすいでいる。
静かすぎる。何か、話さなければっ。幸村が状況を変えようと行動に出た。

殿!」
「ん?」

な、何を話せば…。
考えた幸村の脳裏に先ほど楽しそうに話していた佐助との姿が浮かんだ。

殿は…」
「何?」


殿は、佐助が好きか?」










「う、うん?」


長い沈黙の後は苦笑いで答えた。

「そ、そうか!某も好きでござる!」
「うん。そうだろうね」


会話終了。


なかなか続かない会話に幸村は気を落とす。
殿も佐助が好きだったのは喜ばしいが、長くもたなかった…。
何を話せばよい?
お館さまの事?いやしかし、殿はお館さまの威厳のある立ち振る舞いに恐れている様子。まぁ当然のこと。
団子の事は…団子は好きだが長く会話が続くか?佐助の時と同じ事になる可能性がある。
武士道については論外だな。殿はいかにもひ弱そうだし興味がなさそうだ。
なんだ何もないではないかっ。
他にはなんだ?殿も恋愛や芸能などチャラチャラしたものが好きなのだろうか?

しかし、こうしていつも殿は手伝いをしていたのか。俺なんか佐助の手伝いなど自らしようなど考えたことない。
きっと良い妻になるだろう。…いや!べ、別に今の思いに他意はない!



「でもさぁ、こうしてるとなんか新婚夫婦みたいだよねー」

「は!?」

幸村がやけに大きなリアクションをとってくれたから逆にが驚く。
は変なスイッチを押してしまった気がして後悔をした。
幸村の顔はみるみる赤く染まって口があわあわしている。


「そんなこと、全然ないでござるっ!」
「あ…」
「全然、ちっ違う!」
「ごめん、…違うよね。うん。そうだ」
「某はそんな不埒な事考えたこと無いぞ!」
「うん、わかった。わかったから落ち着いてよ。冗談だって」

凄む幸村を宥めながら、どんどん幸村のことがわからなくなっていくだった。
幸村の思考回路が読めない…。
その後、お前が殺人犯だと指された只の一般人のように違う違うと首を振りながら逃げるように台所を出て行ってしまった。










「むしろ、単純なんですかね?」

「はははは。うける。サイコーだな旦那っ」
「そんな簡単に笑い飛ばさないで下さいよ。こっちは本当に大変だったんだから…」
「うんうん。旦那は単純だよ。ごちゃごちゃ考えない方が良い」
「そうですか…でも、一体最近どうしたんですかね。幸村、ホント変」


あのあと興奮したまま自室に戻ってしまった幸村に続いて台所を出ると戻ってきた佐助さんに丁度でくわした。
疲れ切った顔をした私を見て、半笑いで佐助さんが幸村とはどうだったかと聞いた。
いつの間にか、近くにあった座敷に座り込んで話し合いが始まり今に至る。
何がおかしいのさ。こっちはパワフルな幼稚園児の面倒見てるみたいで本当に疲れたんですよ。


「うーん。ちゃんには言わないでおこうと思ったけど、この調子じゃ何ヶ月たっても無理そうだな…」
「何がです?」

佐助さんが唸りながら悩んだ末、口を開いた。



「あんね、旦那は今ちゃんの仲良しになろうと奮起してんの」
「な、仲良し?」
「うん。だからさ、ちゃんからもちょっと近づいてもらえたらなーなんて」
「幸村と、仲良しですか」


幸村と…。うーん。
正直素直にハイと返事が出来ない。仲良しになりたいと思われるのは嬉しいことなんだけど。
どうも幸村というと朝の武田さんとのぶつかり合いのイメージが強すぎて…
うん。そう、この感情は一般にいう“引いてる”って奴だね。


「が、頑張ってみます」


そうぎこちなく笑ってみたものの、仲良くなれる自信は皆無だ。






「よ、旦那」
「さっ佐助!ノックぐらいしろ!」
「ノックって…何西洋気取ってんの、ABCも言えないくせに」
「うるさい、何用だ!?」

佐助が幸村の部屋に行くと、幸村は柄にもなく勉強机に向かってノートを広げていた。

「聞いたよ。せっかく気をつかって2人きりにさせてあげたのに」
「気を遣って?…そ、そうだったのか佐助?」
気づいてなかったのかよ。…まぁそれは置いておいて、途中で逃げたんだって?聞いて呆れたぜー」
「に、逃げてなどっ。それは、殿が変な事をいうからでっ…!」
「変なこと?」

「ふっふうっふっふっ!」
「夫婦?」
「いっいかにも…」


顔を赤らめながら言う幸村に佐助はがっくり肩を落とした。

「仲良し云々より旦那の将来が心配になってきたんだけど」



「やはり某には無理な気がする」
「あれ、旦那いつになくネガティブじゃん」
「ネガー…?」
「後ろ向きって事」
「後ろ向き?」

教科書に頭をくっつけながら幸村は佐助の言葉を聞いていた。
壁に寄りかかっていつものアンニュイな顔で幸村の様子をうかがっている。
心なしか楽しげなのは気のせいだろうか。

「良いこと考えた。じゃあさ。ちゃんのこと女の子だと思わなければいいんじゃない?」
「は?殿はおなごであるぞ」
「そう思うと緊張しちゃうんでしょ?だったら、旦那の友達と同じ風に思って接すればいいんじゃない?」
殿を…?」
「ま、あとは自分でなんとかするんだね」


パタン

佐助が去った静かな部屋で一人、幸村は机に伏したままじっとしていた。
時計の針の音がいやに大きく聞こえる。
幸村は無意識に鉛筆の頭をかじりながら、佐助の言葉を思い返していた。

「おなご…じゃない」












仲良し、か。

佐助さんに幸村の内心を教えられた夜が明けた朝、
私も色々考えた結果、幸村の気持ちに応えてあげるのが人道という物だろうという結論に至った。
どんなに変な人だろうと、慣れてしまえば平常化するはずだ。
そう思って、今朝は今までにないくらい爽やか&元気よく幸村に挨拶をしてみたのだが…

「お…………………………………おはよう」



間が。

その間は何ですか?
何故困った顔?

私…何か間違った事してしまったのか?
まさか、幸村は別に私にどうも思ってないとか…佐助さんは嘘を?
いや、その時ちらりと見た佐助さんの顔は微妙な顔だった。
いつまで経っても幸村の心を察してあげなかった私に幸村は心変わりしてしまったとか。
あり得る。すごいあり得る。無意識に避けてるような態度とってたかもしれない…。



いつも通りの通学路を、悶々しながら歩く。
今日は幸村が先にスタスタ行ってしまって大分距離がある。
私が武田家に来てすぐの登校はこんな感じだった。

…そういえば、最近は私のペースに合わせて歩いてくれてたのかな?話しかけてくれたような気もする。


うわー…私凄い悪いことした…




私、誰かと仲良くなるっていう事についてこんなに悩むなんて初めてだ。
何故こんな事に?なんでだー??!

謝ろう、なんか凄い悪いことした気分。
私は小走りで幸村の背中に近づいた。

「ゆきむっ「うおおおおおおおおおお!!!」
「!?」
殿!」
「ど、どうしt」

こっちから近づいたはずだが、いつの間にか幸村に駆け寄られ近距離で大声を出す幸村。
何がどうしたんだ、今日の幸村全く読めない。いつも読めないけど今日は特に読めない。


「某、恥ずかしながら細かいことを考えるのが苦手でござる」
「う、うん。私もそう思う…」
「それでな、いつも佐助が色々と助けてくれるのだが、今回の事は…なんというか、難しい」
「…うん?」
「しかし、このままではお館さまに申し訳が立たぬ」
「うん」
「故に、某は殿は女性ではないと肝に銘ずる事にした!」
「うん?」

殿っ、某と仲良しになってくだされ!」

「うんうん」



今まで味わったことのないほどの迫力だった。
中2の担任も声だけでかいド迫力の先生だったけど幸村はそれをも凌ぐド迫力。
幸村が一生懸命喋ってるのは良くわかるけど、どういう意味なのかは1ミリも頭の中に入ってこない。

幸村が手をピンと突き出した。
私はわけもわからず気が付いたらその手を握っていた。
そして次の瞬間には幸村の雄叫びと子供みたいな満面の笑み。

あ、結構可愛い。
…うん、なんか良くわからないけど、よかったよかった。



幸村につられてにこにこしながら、私は学校に向けて再び歩み始めた。

ちょっと問題発言があった気がするが気のせいだろう。




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視点が色々してすみません。
低次元な幸村に萌えを感じる。あと佐助だけに俺という幸村に萌を感じた。
ていうかバサラの人はほとんど低次元でいいんじゃないか…な。
見た目は大人頭脳は小二でいいと思います。
外伝って…怖いよね。




おまけの台本夢(とまではいかない)

男子B「なんか最近お前ら仲いいのなー」
幸村「ああ、仲良しだ!」
「・・・・」
男子B「幸村が女子と仲良くしてるの初めて見た。何したんだよ?」
幸村「何を云う男子B殿!殿はおなごではない!」
「やっぱ気のせいじゃなかったか」

幸村が幸村であるかぎり恋愛には発展しません^^
2style.net