虎と馬と兎








「思えば始まりは幼稚園の頃でした。


私の通っていた幼稚園には、やけに肥えたロザンヌ1号というふざけた名前のアヒルが居ました。あ、ちなみにオスです。
いつの間にか私はロザンヌに気に入られてしまったらしく、外で遊ぶ時はいつも後ろにロザンヌが着いてくるんです。
最初は着いてくるだけだったので嬉しく思っていたのですが、時がたつに連れてロザンヌと私の距離はどんどん短くなっていきました。
それだけなら良かったんです。それだけだったら、私はロザンヌと一緒にいても別に苦にはならなかったんです。
しかしロザンヌは私が創ったピカピカの泥団子を水の中に沈めたり、自分の背と同じくらいまで大きくした砂山にロザンヌは何を思ったのか突撃してぶちこわしたりと、
ロザンヌは自分がアヒルである事をいいことに、それはもう私の努力をすべて無にしていったんです。人間だったらPTA規模の問題ですよ。
幼い私は泣きました。普通無邪気に外で駆け回って遊んでいるはずの年代を、ロザンヌによって私はインドア派にさせられてしまったんです。

それだけじゃないんです。
小学生になってやっとあのデブアヒルから解放されたと思った矢先、目の前に薄汚い犬の群れが立ちはだかりました。
私の通学路に野良犬のたまり場があったんです。
私別に何をしたわけでもないのに、野良犬たちに行く手をはばまれたと思ったら一瞬のうちに家庭科で作った蒸しパンをむしり取られたりしました。
他にも食べ物を持ってるわけでもないのに襲われてたてぶえを盗まれました。
私は両親に懇願して学校まで遠回りの通学路に変えて貰いました。
そしたら新しい通学路には、今度はカラスのたまり場があったんですよ。
もう毎朝毎朝突かれたり、学校までしつこく着いてきたりして。私なんか呪われてるんじゃね?って思い始めたのもそのくらいの時だったかな…。

中学に進学してからは通学路には私の登校を妨害するものは何も居なかったのですが、
友達に頼まれて作ることにしたぬいぐるみ、それを作るために買った綿にですね、流石に私もすっごいびっくりしたんですけど、
ネズミが巣を作ったんですよ。その綿に。これはネズミに感心するしかなかったですね。生き物の生きる力って凄いな…って、半分現実逃避でしたけど。

だからですね、私は昔から動物が大大嫌いなんです。
意味わかんないですもん。私になんか恨みでもあんのかって言葉が通じたら小一時間問いつめたいですよ。あ、やっぱり怖いんでそれはいいかも…
それでですね、高校に入って「お前飼育栽培委員になったからな」とか言われたらどうですか。
「お前飼育栽培委員になったからな」っつった担任蹴飛ばしてそいつのあごにあるデカイほくろを持ってたシャーペンでぶっ刺したくもなりますよね。
まぁそんな事しませんでしたけどね。なんかあの担任無駄にごつくて怖かったし。





…だから、だから!今そのウサギ小屋の戸を開こうとしている手を止めて下さい!












30メートル程離れたところから早口でまくし立てるに唖然としながら、ウサギ小屋の戸を開けようとする体勢のまま眼帯の青年は固まっていた。
眼帯の青年は、え?もう一回言って?と言いそうになったが寸前で押しとどめた。
またあんなマシンガントークされたらたまらない。
とにかく彼女は動物が嫌いなわけだ。




「動物ったって、ウサギだぜ?っていうかもうちょっと近づいてくれねぇ?話しづらい」
「私は全然気にしません!」
いやこっちが話づれーよ。せめて大声出さなくて良いぐらいにまで来てくれよ」
「…し、仕方ないですね。チョウソガブ先輩がそういうなら…」
「チョウソガブじゃなくてチョウソカベね」




ちまちまと進みながらやっとウサギ小屋から10歩ぐらい離れた木の陰にやってきた。
その金網の中に白いものが小さく見える。
心臓がドキドキするのを押さえながら、こっちに出向いてくれたタソカベ先輩の顔を見た。



「ウ、ウサギって言ってもだまされませんからね!あんなのフワフワのもこもこに隠れた一種の悪魔なんですよ…!」
「悪魔ってなぁ。ただのウサギだからよ。ちょっと見てみろよ。かわいいぜー?」
「タソカベ先輩騙されてるんです!草食とかいうのもぶりっこみたいなもんで…」
「タソカベって誰だよ。チョウソカベって言ってんだろ」

もうそんなの今どうでもいい。今全然重要じゃないっス。



いいから来いよ田舎もん。と半ば強引に手を引かれて、小屋の前まで来てしまった。
一言言わせてもらうが私は東京生まれの東京育ちだ。

金網の奥に長い耳がいくつか見える。
今までの恐怖が一気に蘇り背筋が寒くなる。


イヤイヤイヤ…!ちょっと待って心の準備が!」
「大丈夫だって!見るだけだよ、出さねぇから」
「ちょっまっ。ほらーっなんかガサゴソ言ってるもん!」
「そら言うだろ、生きてるからよ」
「耳長いですもーん!」
「そらウサギだからな」


いくら足掻いてもチョソカベ先輩の手からは逃れられない。無駄な体力が消耗されていく。
こういうとき、スポーツ何かやってれば良かったって思う。
柔道とかやってたら、大きい体のチョソカベ先輩も一投げだもん。ポーイって。
ていうかそんなに強かったら動物に襲われることもないか。


「ほら、よーく見ろよ?」
「ダメです。見たらおしまい、その瞳に魂を盗られます」
「何わけわかんねぇ事言ってんだよ、いいから見やがれ」
「いででででで!頭掴まないで下さい!」


顔を強引にウサギ小屋の中に向けられて嫌でも視界に入ってきた耳の長い奴を見る他無かった。
目をつむるって策もあったけど、このチョソカベ先輩の場合、強引だから目の玉ほじりそうで怖いからやめた。
見るぐらいなら…。

いろんな色のウサギが居る。
みんな白色だと思ってたけど、茶色とか黒とか、ぶちのやつとか居る。意外にカラーバリエーション豊富なのね。ウサギって。
その中の体中真っ黒なウサギと目があった。



バサンッ!ドンッ…バサバサバサバサッッッ!!




うはあああわ!!今ウサギがっウサギが見たこと無いぐらい跳んだんですけど!天井に一回ぶつかってたよ!?
「大丈夫だって。ちょっと驚いただけだ。慣れれば大丈夫」
「あの、帰っても良いですかっ」

大丈夫2回言うなよ。逆に不安になってくる。やっぱりだめだろ…。


今の飛び方は尋常じゃなかった。それ見て他のウサギも驚いてたもん。な、なんぞー!?って顔してたもん…。
ウサギから目をそらす。見たらまたウサギが暴れる気がする。


「でも、かわいいだろ?ふっわふわのもっこもこだぜ」
「そ、そうですね。…帰っていいですか?」
「さわると本当気持ちいいんだぜ?耳なんかすべすべだぜ」
「そうですか。帰っていいですか?」
「そうかー。お前そんなに動物嫌いじゃさわったことないだろ?かわいそうな奴ー」

ダメだこの人全く人の話を聞いてない。


おもむろに小屋の戸に手をかけたチョソカベさん。
立て付けが悪いのかガタゴト良いながら戸を開ける。


「ちょ、本当、いいですって!やめてください!」
「大丈夫だって、ウサギは吠えも噛みつきもしねーよ…っと」

小屋に顔を突っ込んで、またひょっこり出てきたときには、その腕の中に1匹の白ウサギが抱えられていた。

ってさっきウサギ出さないって言ってたじゃんかー!前言も無視かよ!





「ほら、かわいいだろ?」


黒いクリクリした目がどこを見ているのかキョロキョロしている。
そこだけ色の違う鼻の先をひくひく、耳をくるくるさせる。
さっきの黒色よりは落ち着いた様子だ。



「こいつは一番おとなしいんだ。ほら、ちょっと触ってみろよ」

「さ、触る!?」


その言葉に体がたじろいだが、よく見れば本当にふわふわもこもこ。
ぬいぐるみみたいに可愛い…。

正常な思考を取り戻せ私。

こんな大人しい動物が私に危害を加えるなんて考えられないか。
ふわもこに手を恐る恐る伸ばした。触れる寸前、ウサギの顔がこちらを向いた。大きな目が私を見据える。






「シャゲェェエエエエエッッ」


「ヒィィィエエエエ!すみませーんっ…!」






思わず30メートル先に逃げたけど、おかしくないか今の!?
鳴かないって言ってたじゃないか!
ウサギがシャゲェエエっておかしくね?ウサギってそんんな風に鳴くんだっけか!?

怖い!やっぱりアニマル怖すぎる…!



「アハハハハハ!!」


「な、何笑ってるんですか!チョソカベさんっ」
「ハハハハハ!そんなに慌てんなよ!」
「そりゃ慌てますよ!あんな声でウサギが鳴くの知りませんでした…!




「ウサギが鳴くわけねーだろ。今の俺の声だよ!ハハハハ、サイコー」












































恥ずかしさと怒りがミックスされ私のテンションは上々↑↑だったのでしょう。





気がつくと先輩にもかかわらずチョソカベ先輩をけっ飛ばしてポケットに潜めていたシャーペンを彼の鼻の穴に突き刺していました。


その日私は初めて流血事件を起こしました。





めでたし めでたし



「めでたくねぇよ!」

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高校で飼育栽培って有りなのかという件ですが、有りです。バサラなんで。(どういう了見
アニキがアニキらしくないのはスルーしようにも出来ないと思いますが、
まぁそこはバサラなんで。すべてバサラの一言で片づく便利な言葉ですね。
さて、最初の主人公の演説は全部読んだ人何人いるかな…読まなくても全然OKです。
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