「はいどーぞ」

中学校は給食だったし高校行ったら学食にしようと決めていたものだから、 さり気なく手渡されたものが最初は何なのかピンとこなかった。
手渡されたものは紛れもないお弁当。

「あっありがとうございます。私の分まで!」
「いいのいいの。ついでだから」

佐助さんはそうにこやかに言う。

他人が作った私のお弁当!
何年ぶりだろう。運動会とか遠足とか、小学校高学年ぐらいから自分で作らざるをえなかった私にはとてつもない感動。
作らなくても顔がにまにましてしまう。必死で気持ち悪い顔しないよう押さえながら、私は玄関を出た。

「行ってきます!」
「行ってらっしゃーい」

新しい生活も、まんざらじゃないかもしれない。






青春謳歌いたしましょう






、準備出来た?」
「うん。どうかした?」
「どうかしたって、早く行くのよー!」

私は頭の上にはてなマークを浮かべた。
百合子は足踏みをしながら私をせかす。
いまいち何を急いでいるのか解らぬまま、教科書を机の中に急いで突っ込んだ。
まだ国語の教科書が鞄の中にあるというのにこの時点で私は腕を掴まれ教室の外に引っ張り出されてしまった。

「ちょ、何処行くの!?」
「何処って、一年はこの時間部活見学なのよ?」
「部活見学?」
「そう」

あれ、でも私は部活特待だったから入部届出さなくても強制的に…

「待ってよ、百合子も特待で入ったんだよね?だったら部活見学なんて無意味じゃないの?」
「無意味じゃないわよ。私他にも入るの。掛け持ちすんのよ」
「掛け持ちかー。大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫〜!高校っつったら青春最後の学園生活!色々やって楽しまなくちゃ」

本当に大丈夫なのか。
私は何処に行くのかも解らずただ、急に青春に目覚めた親友に引っ張られていた。

女の子特有の行動、“何処でも一緒”昼食、移動、トイレ…
なにもそこまで、と女の自分も思うことがあるのだが中学の時はいつだって女の子と連れだって生活していた。
だから、自分には一ミリも関係ない部活見学に強制連行されるのもいつもとなんら変わりない、よくあるよくある。
…と思ってしまった自分がだめだったのか。それともその心理を我が友は利用したというのか。




そして着いたのが…




「私1年D組の吉坂百合子です。で、こっちは1年B組のです」
「ど、どうも…」
「3年坂本きみ。どうぞよろしく」

私の目の前にはすらりとした体型の見た目からはスポーツウーマンを彷彿とさせる女性。
満面の笑みで話す百合子とは裏腹に、坂本先輩は淡々とあいさつをする。
それでも冷たい人だとは感じないのは何故だろう。こういうのが格好いい女の人っていうのかな。

「あの、私たち入部したいんですけど何か面接みたいなのあるんですか?」
「入部?」

坂本先輩は私たちの顔を交互に見てんーとうなり、しばらく考えてから口を開いた。

「君たち、特待生?」
「あ、はい」
「何?」
「私がピアノで、が合唱です」
「ピアノと合唱ね…」

今度はつま先から頭のてっぺんまで舐められるように見られる。
先輩は話さない。その沈黙が怖くて胸がドキドキする。

「少しか弱そうだけど…まぁいいわ」
「だ、大丈夫ですか?」

坂本先輩はニコッと笑ってくれた。
私たちは安心して顔を見合わせて安堵した。


…じゃないよ。私は入部希望してません。
場の空気に乗せられてしまった。さり気なく私たちと百合子に紹介されてるのに気づけ私。

「そうね。じゃあ試しにやってみますか。
 百合子は剣道部で私と。は柔道部にアシ部の副部長が居るから、そっちで…あ、ちょっと待ってね、今メモ書くから」
「あ、あの私…」
「大丈夫よ。そんな怖いものでもないから」

坂本先輩はものの5秒程度で書き上げたメモを私の手に押しつけて、爽やかな笑顔を見せた。
ダメだ完全に私も入部希望者になってしまっている。
今更私ただの付き添いで、と言うには言いづらい雰囲気になってしまった。

「頑張ってね、!」

百合子も爽やかに笑った。
いや、待ってくれ百合子まで!
ていうかなんだその胡散臭い笑顔は…まさか?
そんな、いや。まさかそんな。

「柔道部は第二小体育館だから」
「え…あ」


バタン


私は背中を押されて体育館から閉め出されてしまった。








かくして、私は柔道部の扉を叩くことになりました。不運すぎて泣きそう。
しかし、アシ部とか言ってたけどそれは一体なんなんだ。聞いたこともない。
どうか非現実的で奇異な部活でないことを祈る。

扉を開く前からドタンバタンと柔道部らしい音が聞こえてくる。

「砕けよォ!」
「ぎゃああああああ」

今なんか変な声聞こえたのは気のせいか。
砕け…とかなんとか。
私は柔道の事をよく知らないがそんなバイオレンスなかけ声をかけないと無効になる技があるのかもしれない。
いや、ねえよ。

入る前から変な空気がだだ漏れの第二小体育館。
これから私はこの戸を叩かなければならないのか。すごく憂鬱になった。
だけど立ち止まってちゃ進まない!がんばれ私!よし。入るぞ。深呼吸して…はあーひぃ…
意を決してオープンザドアー。


「し、失礼しまーす…」


「ぎゃああああ!」


ドコーン



今何が起こったのか整理しようか。


私は両開きの引き戸の右半分を引いた。だから私が開けただけならば左半分は閉ざされたままのはず。
しかし今2つの引き戸は全て開け放たれている。
右半分は私の手によって。左半分は欠片もなく消え失せている。
そういえば私が開けたとたん悲鳴と共に一陣の風が通り抜けた気がした。
あの風は一体…

風が通り抜けたと思った方を振り返る。
そこには木の板を敷き布団にして人が寝ている。
もとい、人が倒れてる。

つまりは、人が飛んできて左側のドアを突き破っていったって事だろうか。

ぎゃぁぁああ


「だ、だだ大丈夫ですか!?」

慌てて私は倒れている人に駆け寄った。
柔道部らしく柔道着を着ていて、顔を青くしてぐったりしている。
そりゃあそうだよ。一体何故こんな事になったんだ…!

「死なないでくださいー!」
「…だ、いじょうふ…」

倒れた人が薄目を開けて虫の息で答えた。
大丈夫もまともに言えてない。大丈夫じゃないんだ!

「早く保健室に…」

その時ふいに私の周りが薄暗くなった気がした。

「ふん、肩慣らしにもならんわ」

そう言ったのはとてつもなく大きな…猿?いや、ゴリラ…?いや、人間。
人語喋ってるし紛れもない人間。二足歩行だし柔道着着てるし。
その人の影が私たちを覆っていた。

「ん?貴様何者だ」
「あっあの!この人、保健室に…」
「保健室?そんな必要はない。」
「でも、絶対今ので怪我してます!」
「ここでそいつが死ぬのならそれがそいつの運命なのだ」

そういう問題じゃないだろ!
そんな事言ってたら今までの医療の進歩は全て泡となって消えてしまう。
この人の言うことを鵜呑みにして、それもそうですねと倒れた人を見捨てる冷たい人間に私は育ってない。
しかし私には到底この倒れている人を担いで保健室まで連れて行くことはできないだろう。
どうにかして倒れた人をこの人でも誰でも良いから連れて行って貰わなくちゃ後味が悪すぎる。

「もしっ、この人が死んでしまったら学園の問題になりますよ!」

あたまを捻って絞り出したのがこの脅しみたいな言葉だった。

「それがどうした」
それも鼻の先でせせら笑われてしまったがな。
この大きな人は一体どんな神経をして居るんだ。
「…問題になったら、学園はきっと柔道部を廃部にします!」
「なんだと」

やっと敵は動揺の色を見せた。

「そうなりたくなかったら、この人を運んでください」
「む…」
彼の体がピクリと動く。
よし、これで運んで貰えるだろう。そう思った矢先の事だった。
「秀吉、そんな女の言うことを聞く意味はないよ」

大きな彼の後ろからやってきたのは柔道着を着た細身の人だった。鋭い目つきで私を睨んでくる。
なんとまた敵が一人増えたと言うのか。

「その程度で人が死ぬわけ無いだろう」
「でも、戸が外れるほど…」
「その戸はもともと外れやすいんだよ」

その人は私を見下すように嘲笑した。
なんでこの人たちはこんなに保健室に連れて行きたがらないんだ。

「それにもし、学園側が廃部を決めたとしてもそれに従わなくてもいいじゃないか」
「なるほど」
なるほどじゃないですよ!そんな事許されませんって」
「煩い女だな。そんなに連れて行きたかったら自分で連れて行けばいいだろ?」

ああ、こんな面倒くさい口論するぐらいなら自分で運んでるよ。
でもそれは自分で運べた場合であって、私の力では倒れてる人を助け起こすぐらいしかできない。
だからあなた達に助けを求めているのに…

「あ、あの…私が行きます」

反論しようと口を開きかけた時、私じゃない女の子の声がその場に響いた。
大きい人が驚いたように目を見開いた。

「ねねっ」
「私が運びます。…あの、申し訳ありませんが手伝って貰えますか?」

秀吉と呼ばれた大きな彼の脇から現れた細身の女の子。 スタスタと倒れた人の側により、私にそう言った。
2人ならできるかもしれない。私はもちろん肯定の意を示した。

「ありがとう」

女の子は柔らかく微笑んだ。
面と向かうと、その人は目を疑うほど愛らしい容姿をしている。
漆黒の長い髪を低いところで結んでいる。その闇夜のような黒髪に対して肌は雪のように白い。
女の私でさえ微笑みかかけられて思わず赤面してしまった。

「し、しかし、ねね…」
「私の仕事です。行かせて下さい」

彼女が出てきたことに秀吉と呼ばれた人は戸惑っているようだ。
しかし彼女は真っ直ぐな瞳で秀吉を見つめている。

「いいじゃないか秀吉、行きたいって言ってるんだから行かしてやりなよ」
「…わかった。ならば行くが良い」

渋々と言った感じだが、秀吉と呼ばれた人はようやく了承した。

「ありがとうございます!」

ねねさんは律儀に頭を下げる。私だったらお礼なんか言わないだろう。 なんて折り目正しい人なんだ。










「全く、酷い人たちですよねっ」

プンスカ怒っている私を見てねねさんはくすりと笑った。

今は倒れた人をベッドに寝かし終わって第二小体育館に戻る途中の道。
久しぶりに重い物を持って肩外れるかと思った。
意外にも細身のねねさんは力持ちで驚いた。それも素敵だ。

「でもびっくりしたわ。秀吉君にあんな風に意見してる人竹中君以外で初めて見た」

秀吉君とはあの大きな人。倒れた人を投げ飛ばした張本人だそう。それなのにあんな事言えるなんて頭どうかしてるんじゃないか。
竹中君とは白髪の小さい人。いや、豊臣先輩の隣に居たからそう見えただけかもしれないけど。

「当たり前ですよ、あんなの道徳的じゃないです。誰だって反論しますよ」
「そんな事無いわ。秀吉君って見た目怖くて力は強いもの、みんな怖がって何も言えないのよ」
「確かに大きい人でしたが…強いなんて知らなくて」
「そんな慎ましくなること無いわ。私貴女のこと凄く気に入った」

な…なんでそう言うこと言うんですか!
恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかる。こうだから女の子って困る。嬉しいけど。

「でも、彼らのこと嫌いにならないでね。本当はいい人なの」
「ねねさん…」

実を言わなくても私はあの人たちに対してあまり良い感情は抱いていない。
ねねさんの言葉に私は曖昧な返答をするしかなかった。

「そういえば、柔道部に何か用だった?」
「あっ」

そういえば。すっかり忘れてた。
私はアシ部とかいう謎の部活を体験するためにここにやってきたのだ。

「柔道部にアシ部の副部長が居ると聞いたのですが…」
「まあ、私に何か用?」

なんとねねさんが副部長だったとは。
良かったと言わざるを得ない。頭の隅であの豊臣先輩や竹中さんだったらどうしようかと思っていた。
私は坂本先輩から貰ったメモをその人に渡した。
そのメモを読みながらねねさんの目がだんだん輝いてくるのが解った。一体何が書かれてるんだ?

ちゃんが入部希望なんて嬉しいわ!」
「はい…」
「しかも最初は柔道部でアシ部ですって!」

はて、柔道部でアシ部とは一体。日本語的に理解が出来ないのは私だけでなければ嬉しい。

喜々とするねねさんに手を引かれて私は体育館に入った。
マジでなにするんだろう…ねねさんに坂本先輩。まともそうな人たちだから変な部活ではないだろうけど…。
正直なところまだ不安が拭えない。

「秀吉君、今年からちゃんが柔道部でアシ部やってくれるそうよ」

豊臣先輩の前に突き出されて戸惑った。
いや、私まだ入るとは決めてないんだけど…

「貴様が?」
「君が?」

「…いや、そんな言わなくても」

隣にいた竹中さんと共に豊臣先輩は盛大に眉間にしわを寄せてくださった。

柔道部でアシ部という日本語が解らないにせよ、少なからず柔道部でなんらかの事をするのだろう。
という事は入部したら嫌でもまたこの鬼畜ペアの姿を見なければならないという事。
……切実に入部したくなくなった。

「あの、ねねさん私」
「なーに?ふふふっ」
「…がんばります」

目をこんなにもキラキラさせてるねねさんを前にやめるなんて事言えるわけないでしょうが。




前言撤回、新しい生活なんてまんざらすぎて泣けてきます。

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で結局アシ部ってなによ?
書いてたら長くなったので省略(すんな
したのにこの長さって…絶望した、私の文章要約能力に絶望した。
でも楽しかったのでOK(待て
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