『駅前のファミレスに6時! 絶対来いよ!』

半ば強引に連絡先を奪われた私に届いたのは、上述の内容だった。
今朝の”元カノ”発言に対する私の反応が納得いかなかった様子で、その後になって、話し合おう、と真剣な目で言われた。
いつ呼び出されるかと思えばその日の夕方。随分急いているようだ。

新しく現れた画面の下方には『友達登録しますか』とシステムメッセージが出ている。

……自撮りアイコンか。登録したくないな。









知らんぷり 後編










「コレ、おいしいんスかね」
「うっわ〜俺はむり、かなあ。あ、ミックスグリル一つ」
「ん〜。でも万が一めっちゃうまかった場合、後悔すっかな〜。ん〜」

ファミレスの新メニューを前にに頭を抱える左近。
伝票を持った店員さんは手持無沙汰そうに彼の決定を待っている。
決めてから呼びなさいよ。

「よっし!決めた。俺、チョコソースハンバーグと、ケチャップアイス!」
「うわ。全部いったよコイツ」
「おまえは?」
「……紅茶一つ」
「えっ、何も食べないの?」
「夕飯は家で食べるので。二人は家のご飯はいいの?」
「「家でも食べるに決まってんだろ〜!」」

はは、と乾いた笑いが出る。
流石は育ち盛りの高校生である。
まあ、それはいいのだけど。

「なぜ慶次先輩まで居るんです?」

少し遅れてファミレスに入ると、左近と慶次先輩は既に席についていて、新メニューについてやいのやいのと語り合っていた。
やはりというかなんというか、二人は知り合いだったようだ。類は友を呼ぶとは本当のことだろうか。ならば何故私には友に類が居ないのだ。

私の質問に、左近はいきなりガンと机に頭をぶつけ、絞り出すような声で言った。

「だって! 怖いじゃん!」


どうやら、付き合っていたと思っていた女子にえ?私たち付き合ってたの?と言われ、多少なりとも傷ついた左近くんは話し合いを決意したものの、一人じゃやっぱり怖いから類友を呼んだ、ということらしい。

「怖いなら話し合いなんてしなければいいじゃん」
なんでお前そんな素っ気ない感じなの!? 知ってたくせにずっと声もかけないし、この話もちょっと動揺とかさ、しない普通!?」
「だってどうでもいいし。昔の話でしょ? まあ、今朝みたいに言いふらされて私の体裁に傷をつけられるのは困るけど……」

ていうか同じクラスのくせに気づきもしなかった自分はどうなんだ。どっちもどっちだろう。
思わず口を出た言葉がぐさりぐさりと左近を貫いたようで、頭を抱えながらかすれる声を出した。

「ど、どうでもいいておまえ……傷ておまえ……」
「もうやめてやれよ!左近のライフはゼロよ!」

慶次先輩がすかさずフォロー(?)に入ったときに、あまりにも無配慮な言葉だったと気づいて謝った。

「ご、ごめん。つい本音が」
「ほ、本音ぇ……」
「ここでとどめを刺すか!非情な女め!」

ついに天に召された左近はファミレスの机に突っ伏したまま動かなくなる。
左近の屍の背をさすりながら、慶次先輩は憐れみを帯びた目を向けている。
そういや最近までは慶次先輩が今の左近みたいになっていたな。
やはり時の力は偉大だ。左近もはやく立ち直ってくれるのを祈ろう(他人事)。

「今のはちゃんが悪い。あんまり男を弄ぶもんじゃないよ」

あなたも楽しんでいたくせに。と思ったが流石にもうこれ以上は何も言えなかった。
しかし、弄ぶなんて人聞きの悪いこになっていたのか、私は。
それは素直にごめん。



「しっかし、意外だね。二人が知り合いってのにも驚いたけど、そんな関係だったとはね」
「話聞いたんですか? 私は全然記憶にないんですけど」
「あんたも罪な女だね。昔ったって事実には責任を取るべきじゃないのかい」
「もう時効ですよ。そんなの」
「冷たいねえ。左近はこんなに傷ついてるってのに」

責任ったって、当時の私たちは――
思い出してみようとするけれど、どうにもそんな浮かれた記憶は呼び起きない。
恋愛感情どころか、左近に対する私のイメージといえば、あまりいいものではないものが多いし。

慶次先輩は真剣な顔で怒ったと思えば、にやにやと笑っている。ほら絶対楽しんでいるよ、このお祭り男。
こんな場所まで出張ってきて、人の恋バナでも食って生きるのだろうか。
普通こんな面倒くさい場面私なら絶対に断っている。
当事者なんだけど断りたいもの。



料理が来ると肉の力で左近は体制を立て直し、話は本題に入ることにした。肉とは偉大だな。

「つまり、ちゃんと左近がつきあっていたのか否か、決着をつけるってわけだ」

目の前で男子高校生2人が肉を食い散らかすのを横目に、私は紅茶に砂糖を溶かす。
こんなにどうでもいい議題をファミレスで議論する日がやってくるなんて思いもよらなかった。人生とはいろいろな事があるものだ。

「おほん、では俺から当時の話をするっス」
「いよ!待ってました!」

慶次先輩がいるとなんか宴会場みたいになるな、と思いながら、私は紅茶をすすって彼の話に耳を傾けた。





「そう、俺たちが付き合い始めたのは小3のとき」
「小3!?」
「だから時効って言ったじゃないですか」

左近とは、幼稚園と小学校の低学年まで同じ教室で過ごし、家も近いが別にいつも遊ぶといったわけでもない、という微妙な間柄の幼馴染だった。
小4のときのクラス替えで別のクラスになってから交流はほぼ断絶。中学も別の学校になり赤の他人状態。そして高校にて再会、というのが二人の運命だった。
だから、付き合っていた云々の出来事が起こるとすれば幼稚園から小学校3年生の間。
そんなもん付き合ってたかどうかなんて、正直どうでもいいだろ。

突然やる気を失くした慶次先輩をよそに、左近は神妙そうに話しをつづけた。
もはやこの話乗り気なのは左近当人だけである。



「そう、あれは俺が誰彼かまわず手あたり次第女子に告白を繰り返していたときの事」
「最低か」
「100戦100敗、否定されまくった俺の心はズタズタだった……」
「そういうのって女子わかってっからね!」
「そこに現れたのがジョンミラボルタだったんス」

頬杖つきながらおとなしく聞いていたが突っ込みどころ満載だろ。
どこから突っ込んでいいのかわからないけど、とりあえずそろそろ本名を呼んでくれ。
慶次先輩も幸村も散々私のこと名前で呼んでたしわかってんだろお前。

「ミラボルタ?」
「そう、当時はそんなあだ名で呼ばれてたような気がする」
「そうなの?諒ちゃん」
「……ノーコメントで」

「当時のトラジョボビッチは、夕陽に染まる駄菓子屋のベンチに座る俺に声をかけてくれたんス」
「名前変わったけど」
モンゴル8000は当時誰からも恐れられる存在だったっス。だから俺もモンゴル8000には告ってなかった」
「恐れられる? どうして?」
「なんつーか、影の番長? そんな感じのこと言われてましたね。よくは知らないんスけど」
「ええ!?マジで?」
「……」
ちゃんはさっきから何故ノーコメ!?こわ!結構散々言われてるけど本当なの!?」
「……私はいいから早く続けなさい」

「まあ、それで駄菓子屋の近くで一緒に遊ぶようになったわけなんスけど、ある日告ってみたら、あっさりOKしてくれたってわけっス」
「え、そこそんなサラっと語っちゃうの?もっと詳しく話してよ」
「えーでもよく覚えてないんスよね」
「なんて告ったの?」
「え、そこ聞いちゃいます〜?」
「そこやっぱ一番大事っしょ!」
「えーと……は、恥ずいっスね」
「ほら!もうここまで言ったんだから吐いちゃいなって!」
「……好き!って!」
「きゃ〜〜!!やっぱシンプルが一番キュンとするよね〜〜!!」










なんだこの会話。





無駄に女子力の高い会話を続ける二人を、遠い目で捉えながら私は紅茶に口をつけた。
あ、もう冷めてる。帰ろうかな。

「これで思い出したろ!な?」

気分が盛り上がったらしい左近がニコニコと花を飛ばしながら聞いてきた。
私は荷物から財布を取り出して、自分の分を探りながら答えた。

「ああ、うん」
素っ気な! でも、認めるんだな?」
「うーん、でもその先は?」
「その先?」
「どうやって別れたか、覚えてる?」
「え、別れ……?」

いやまあ話を聞いても付き合ったつもりは私にはないのだけど。
私のことを元カノというのならば、彼はどうやって別れたつもりなのか聞いてみたかった。
左近は右上を見ながら考えたが、しばらく考え込んだのち、ぱっとこちらを見ていった。

「自然消滅!」
「ではこれ、紅茶代ですので」
「え、えぇ!?」

まあ彼の答えを聞くまでもなく、様子を見ていれば覚えてはいないのだろうと思ったけれど。
私は席にお金を置くと席から立ちあがった。
思ったより時間が経っていたようで、ファミレスの大きなガラス窓から見える外はもう夕陽に赤くなっている。

「お、怒ったの?」
「いや。怒ってないよ。でももうこの話はやめよう。お互いの為に」
「どういう意味!?」
「じゃ私これで……」

何も言わずに去ろうかとも思ったけど、やっぱりこれだけは言っておこう。
出しかけた足を止めて振り返る。


「あ、私がその時左近を好きって言ってたかもしれないけど、でもそれは絶対そういう意味じゃないから」


絶対、と強調して私は再び踵を翻した。
すれ違いにケチャップアイスを持った店員がやってきたので、二人とも私を目で追いながらも席は立てなかったようだ。
店を出る間際、左近の嘆く声が聞こえた気がしたけれど、それは魅惑のアイスのせいかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。



しかし、彼の話を聞いて、私も当時のことを思い出していた。
左近の話に間違いはほとんどなかったから黙って聞いていたけど、彼の話のおかげで私の中でも色々と補完されてしまった。
左近の勘違いも、私の勘違いも、左近の事をあまり好きじゃないと今までずっと思っていた理由にも気づいてしまった。

そして、あの当時を笑い話にするには、私はまだ幼すぎるという事にも。




ただ少なくとも皆にわかってほしい事がある。

私は島左近とお付き合いしていませんでした。





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左近は博打キャラ、ということで、私なりに取り入れた博打っぽい部分は以下。
・名前を忘れた主人公に対して適当な名前言って当てに行く
・新メニューに挑戦
・手あたり次第告る
もっとなんかあっただろう……。

二人の過去に何があったのか、果たしてKGは左近の心の支えになっていたのか、
色々謎は残りますがとりあえずこの話は一旦終わりです。お付き合いありがとうございました。
2style.net