私の中で、人間関係というものは深いようで浅い、冷たい川の流れのようなものだ。
特に私たちのような子供にはまだ、社会に取り巻く煩わしい黒い雲とも縁が無いから、余計にそうなのかもしれない。
ただ純粋に、好きや嫌いや、興味、無関心がせわしなく流れてゆく。

彼と私もまた、そうなのだ。
彼を近くに感じながら、他人のふりを決め込んでいたのは、きっと私の無関心がそうさせのだろうか。
……いや、最悪は負の感情である。






知らんぷり 前編







「オッスー!みんなチョリース☆」

絵に描いたようなチャラさ。朝から星を飛ばしながら教室に入ってくるのは彼だった。
ノリの軽さは人を惹きつけるようで、瞬く間にチョリースと言う彼は男も女も惹きつけた。
同じ教室にいる幸村だって見目は劣らないはずなのに、なぜか皆から一歩引かれている。それは幸村が頑なだからだろうか。
私だったら、チョリースと熱血漢、どちらかを選べと言われたらもちろん……いや、やっぱ考えさせてくれ。

そんなテンプレート貼っつけたようなチャラ男に成長した彼のことを、私は入学当初見ただけであの彼だと気付いた。
そして、あ、これ関わっちゃいかん奴だ、と瞬時に悟る私。
向こうもきっと同じように思ってるはずだ。私のことなど知らないといった風に毎日過ごしている。

「よっ。幸村もチョリーッス!」

チョリースが話しかけると、幸村はあからさまにイヤそうな顔をする。
幸村は軽薄そうな人が好きじゃないらしいからチョリースの事も苦手だと前に溢していた事もあった。

「ちょ、ちょりー、とはどういった意味でござるか?」
「チョリース?挨拶ッス挨拶!」
「挨拶であったか。これは失敬。ちょりす…でござる」
「あはは!新しいね!チョリースデゴザール!」

幸村もチョリースの仕草まで真似てやってみるが、どこかぎこちなく馬鹿にされる始末である。
いや幸村に変なこと教えないでくれ。この子は単純純粋お馬鹿だから、吸収率は半端ないんだ。

「あああ、某、そういえば殿にお聞きしたい事がござった故、失礼致す」
「ああ、うん?」

うわ、逃げてきやがった。

幸村はいそいそとこちらにやってきて、まだ開いている隣の席を引っ張って席につくとため息を吐いた。

「なんの用だい」
「なっなんというか、本日はお日柄もよく……」
「今日は曇りだよ」

一応聞いてみるがやっぱり用は無いようだ。
でも幸村が私のところに逃げ込むのは正解だ。あのチョリースは私の所には近づけないだろうから。
彼の様子でも見てみようかとちらっと横目で見てみると、

すぐそこにチョリースの顔が。





「おっうぁあああ!?」

驚いて柄にもなく大きな声を出してしまった。
「うわっびっくりした!」
「いやこっちの台詞だわ!」


チョリースもガタガタと椅子を引き出して、私の前にどっかりと座り込んだ。
幸村はせっかく逃げてきたのに追いかけられ、まずいものでも食べたような顔をしている。
何故今になってこんなに近づいて来たんだろうか。
だって、私たちはお互い知らないふりを……

「お前、まさか笹子ミラジョンタノス、か!?」
「何っそうであったのか!」
「そんなわけなかろうて」

私は口をあんぐりと開けざるを得ない。
私のほうは完全に他人のふりだったけれど、こいつは違ったようだ。
こいつ完全に私を忘れてたんだ。


「でも、やっぱりそうだよな、名前ここまで出かかってんだ。俺の事覚えてる?」

明るい笑顔をこちらに向けて来る彼から、私はずずず、と視線を逸らした。
もちろん覚えているとも。見た瞬間に思い出したとも。

「え、ええ。島左近くん、でしょ」
「なーんだよ!やっぱり!なんで声かけてくれなかったんだよ、ジョゼフィーヌ!」
「いや名前くらいクラスメイトなら知ってるわ普通」

なんてことだろう。
私の事、今まで知らないふりをしていたのではなくて、ずっと知らなかったんだ。
いや、そうだとしても、ずっとそのままでいて欲しかった。
そう、ずっとそのままの君で居て……でももう時すでに遅し。彼は今目の前にご機嫌そうにニコニコと笑っている。
随分背も伸びたし、声も低くなって、髪の毛なんかも格好つけちゃってチャラチャラしてるし、見た目はすっかり変わったな。
……でも、無邪気な笑顔は昔のままだ。


「二人共、知り合いであったのか」

幸村がきょとんとして呟いた。そりゃきょとんとするよね。私何も話してなかったし。
それにこのクラスになって約半年は過ぎているのに、今更こんな会話してるしね。

もうこの際だから、腹をくくって話をするしかないか。
「ああ、私たちね、実は……」
「そ!俺の元カノ☆」




は?


「は?」

「も、もももも元カノ!?まさか、殿がそのような破廉恥な……!?」
「いやいや、ちょっと冗談やめてよ左近!幸村も信じないで!

いやマジ何適当な事言ってんだこの人。周りに聞かれたらどうするんだ。
ちらと辺を見回すと、すでに教室の端々でこそこそと話し合っている。
まあそうだよね。幸村の大音声が聞こえなかったわけがないよね。

「冗談って、きついなー!あんなことやこんなことした仲だろ?」
いやもうマジ黙って。ちょっと、あんたこっちきなさい。早く!」

追い打ちをかけるように誤解一直線な事を話しだす左近に、何を想像しているのだか、顔を真っ赤にして恥ずかしがる幸村。
左近の腕を引っ張って廊下に連れだした。これ以上教室で喋らせたら何言われるかわかったもんじゃない。



「ちょっと、何あることないこと……いや、無いことばっかり言ってるのですか
「嘘は言ってないっしょ? 砂遊びや、ままごとや、鬼ごっこ……あんなことやこんなこと」
「それは語弊にも程があるね」


私の怒った顔に、左近はため息をついて首を振った。
どこか悲しげに目を伏せる。

「だって、お前、ずっと知らないふりしてたわけでしょ。なんか悔しくって」
「腹いせかよ。たち悪いな」
「なんで知ってたのに声かけなかったわけ?」

すねたように口をとがらせる左近。体は大きくなったのに、子供みたいな顔をする。
まあ、確かにそれは私が悪かった。本気で悲しんだような顔の左近に罪悪感が湧いて、私は頭を下げた。


「それは、ごめん。だって、私、こんなおかしな学校で目立ちたくなくて……」
「え。なにその理由。なんでそれで俺に声かけないことになるの?」
「左近目立つ事いっぱいしてるじゃん。最初の自己紹介の時だって『俺と一発、でっかい花火を打ち上げようぜ!』とか言うし。正直意味不明でみんな困惑してた」
「あ、あ、あれは先輩にそう言えば友達100人できるって言われて」

自己紹介の話は本当の事らしくて、彼は頬を赤くして恥ずかしがっていた。
ん?先輩?……何か心当たりがあるような気がするけど……まあいいか。

「でも、まあいいや。今はフツーに再会できて嬉しいし。また同じ学校でしかも同じ教室!運命感じるっしょ!」
「確かにそうだね。こんなこと珍しいことだよね」

ご機嫌そうに笑う左近につられて、私も自然と笑顔になった。
左近の言葉はいつもストレートだ。昔もそうだった。そういう所が実にチャラい。
でもいつだって一直線で、その顔を見ると誰だって憎めやしない。そういうずるい人間なのだ。

「昔とはいえ、一度はカレカノになった仲なんだし、これからもよろしくな!」
「ふふふ、何まだ冗談言ってんの」
「え!?この流れでよろしくしないの!?」
「いや、そうじゃなくて。彼氏彼女って……からかってるのかもしれないけど、またそんな嘘言ったら怒るよ」

正直笑えない冗談だし。左近と付き合うとか――て、え?
左近はぽかんと口を開けて、何かおそろしいものでも見たかのような顔をしている。

「俺たち、つ、付き合ってなかったの?」





「え?」



私に彼氏が居たことがあるらしいお話はまた後日……。





後編

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又何かおかしな講習会を開いていたらしいKG先輩。
4未プレイで申し訳ありません。いつか買いたいやってみたい。

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