「・・・・・・。」



「・・・・・・。」






心の糸電話







「・・・・・・。」



「・・・・・・あの。」


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



ダメだなんだこれどうしたらいいなにこれえええこれどうしてなの。

部屋に響くのはゴインゴインという洗濯機の音だけで、あとはほとんど無言。
私はどうすればいいのかもわからず、どこを見ているのかもわからない青年に目を向ける。

なんでだ。なんで彼はしゃべらない、こっちを見ない、無視をする?



ゴイン…ゴイン…ウィイイイイイイ



なんだかよくわからない音を立てはじめる業務用洗濯機。
その音を聞いても微動だにしない、無言の青年。
まあ、普通なのだろうと思って私も見ていた。


「・・・・・・。」


ダメだ、気まずいっ…!

おしゃべりというほど私はおしゃべりではないけど、この沈黙は耐えられない…!
静かに後ずさりして気づかれないように、私は光が差す方へと向かった。
小さな出口から見えるのぞかな風景は、淡い色の芝生に整った花壇。
そして物干し竿にかかる白いシーツやシャツ。
洗剤のCMにありそうな風景だが、これはホンマモンやで。


「佐助さん…」

すっかり疲れた声で、私はたなびくシーツをながめている佐助さんに声をかけた。
佐助さんは眠そうな顔をしていたが、私に声をかけられてはっと目を覚ました。

「どうかした?」
「あの…あの人」
「風魔小太郎?」
「はい…なんで…あの…あの人喋らないんでしょうか…」

深刻そうな顔で話す私に、佐助さんがぷっと吹き出した。




私は今佐助さんに頼まれて、「栄光荘」という老人ホームにアルバイトをしに来ている。
もちろん、お年寄りの世話は資格のある職員の仕事で、 私や佐助さんは洗濯や皿洗いなどの裏方ばかりだ。
次から次へと運び込まれる洗濯物に追われて小一時間のところだった。


同じくバイトの風魔くんになじめない。


だってなんでだ、何故何も話さないんだ。
あいさつもしない、笑いもしない、咳もあくびもしない。 彼は本当に人間だろうか。
顔も髪の毛で半分隠れて表情が読み取れない。前は見えているのか。もしかしてコウモリみたいに超音波で回りを把握しているのか。
仕事は機械的にきっちりこなし、私がへばると見えない目でギロリと睨まれた事もあった。(多分)



「ははは。元々あんまし喋らない子だからね」

私の愚痴を軽く笑い飛ばす佐助さん。
佐助さんだって、風魔くんから離れて働いてるくせに…。
一段落ついたからって寝ないでくれ。こっちはずっと無言に鎮圧されて…


ちゃん?」
「居づらいったらありゃしませんよ。私が干しますから佐助さんは…」
ちゃん」
「なんですか?」
「うしろ」


「・・・・・・・。」




ひええええええええ



私の背後に立っていたのは、まぎれもない風魔小太郎くんでした。
本人の目の前で陰口を叩いていたかと思うと吐き気がもよおす。
顔をサァッと青くする私とは違って風魔くんは顔色一つ変えずに私を見下ろしていた。
見下ろしていたといってもこちらから目は見えないので、そんな気がするだけだ。


「あ…いや……今のは…」


必死で言い訳を考えて口をもごもごさせる。
風魔くんは固まったまま無表情でその様子を見ていたが、
ふと顔をあげるとすたすた歩いて洗濯場に戻っていってしまった。

どうすればいいのかもわからず、
佐助さんの顔と洗濯場の開け放たれたドアを交互に見ていると、風魔くんが洗濯物の入った篭を持ってでてきた。
ドアの邪魔にならない所に静かに篭を置くと、風魔くんはドアをこれまた静かにきっちり閉めた。








ちゃん。どんまい」



「うわわぁぁああああああああああ!!!!」

















「ここにある分は終わったね」
「はい…私残り持ってきますね…」


風魔くんに無言で追い出され、私は佐助さんと干す作業に汗を流した。
確かに…こうしたいとは言ったけどさ…実際なってみると辛いものだ…人間関係的に…


振り返って洗濯場の小さな入り口を見ると、既に洗い終わったらしい洗濯物が篭に積まれていた。
なんだかもう中に入ってくんなとそのかごを通して風魔くんが言っているようでますます落ち込んだ。

とりあえず、持ってこうとかごに近づいて持ち上げた。
ふと洗濯場を見ると、暗い部屋の中で風魔くんが一人洗濯機に持ち込まれた洗濯物を詰め込んでいるのが見えた。
なんだか少し寂しげに見える。



…そりゃ、怒るよなあ…




謝らなくちゃいけない。ごめんなさいってひとこと言うだけでも全然違うはず。
…わかっているけど、この大きな隔たりを破る力が私にはあるのか。
このドアは開いているはずなのに、いくつもの鍵でがっちりと閉ざされているようだ。

銀のドアノブを撫でながら、私は勇気をためていた。
けどいくら待っても貯まらない。…勇気ってどうやって分けて貰えるのか教えてくれ悟空。…あれ、ごはんの方だっけ…?

・・・いや、いつまでもこうやってたって意味がない!
ふええええい!いったれ!言ってしまえこの!






ガチャ




「…あのっ手伝います…!」




突然現れた私に風魔君は腰をかがめたまま動きを止めた。
しばらくの間フリーズしていたが、何も言わずに作業を再開した。


また返事なし…

しっかっし!
これでうろたえては関係改善は果たせない!
無理矢理でも、やるんだもん!
あーなんか涙出てきた!

意気込んで私も汚れた布を手にして、大きな洗濯機に放り込む。
今度は風魔くんは何も反応せず、淡々と仕事をこなした。

その間ずっと謝る機会をうかがっていたのだが、いかんせん会話がないのでそんなもの訪れようもなかった。




糸電話プリィイイイズ!!喋らなくても伝わる糸電話プリィイイイイイズ!!!!















風魔くんの顔色をうかがってばかりの一日だった。 精神的にも体力的にも疲れてぐったりだ。
しかも風魔くんは何をしようが無表情で無反応。
無駄骨だったのか、意味があったのかもわからない。 ある意味無意味といってもいえる。


日も傾き、今日の仕事は終了。
この後も働く正職員の方々に挨拶をして、私たち3人は栄光荘を後にした。
バイクを持ってくると言って佐助さんが居なくなり、私と風魔くん2人きりになってしまった。
あ、謝らなくちゃ…!このまま帰ってしまったらもっと謝れなくなってしまう。


風魔くんは音もなく歩き出して帰っていく。
まったく手ぶらの風魔くんは本当に不思議な人だ。



「風魔くん!」


「・・・・。」


ぴたりと歩くのをやめて、風魔くんがゆっくり振り返った。


「あの…本当に、ごめんなさい。私、悪気はなかったんだけど…」



深く、お辞儀をした。
涙がにじんできそうなぐらい、罪悪感でいっぱいだった。
本当に悪気はなかった。ほんのちょっと愚痴をこぼしたぐらいだった…。
言ったことは事実なのにこんな言い訳も頭にあって、自分てせこい人間だとつくづく思う。



風魔くんが無言で歩み寄ってきて、私の目の前で止まった。



すっと手が上がって身構える。
叩かれるかと思った。
けど、その手は私の胸の高さで止まって停止した。


普通に考えたら握手だけど…はたくぞコルァの手、か?


ごつごつした皮の厚そうな手を見て生唾を飲む。
ど…どうしよう。
もしかして全力で握って私の右手をお陀仏させる気なのかもしれない。


いや、もし違ったらどうする!
もしここで握らなかったら余計こじれるだけだ。


意識しすぎて手汗がにじんできた。
履いているGパンでこすってから恐る恐る手を伸ばした。

無言でにぎられる手。
手の大きさが違いすぎてほとんど包み込まれている。
けど、痛くもなんともない、触れるだけのような短いただの握手だった。

身構えていたもんだから、拍子抜けして風魔くんを見上げた。
もちろん彼は何も言わなかった。





風魔くんはすぐ踵を翻して行ってしまったから、ただの見間違いかもしれないけど





ほんの一瞬微笑んだような、そんな気がした。





「…………よ、よかった………!!」
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風魔の無口さに脱帽\(^o^)/

2222Hitのロム吉さんからのリクエストでした。
リクエストというより、プロット…ロム吉さん 文…AUGと言った方がいいですね。
しかしプロット通りに書くのが苦手なAUGは大分はしょったり無視したり…
最後の握手の意味もずいぶん変わってしまってほんとう申し訳ない。
老人ホームという設定も生かし切れず玉砕。
北条のお爺さんも出てこなかったごめんなさい。
小太郎を出すという事だけでいっぱいいっぱいでした…。

今回の心でわかってほしい部分
小太郎は優しい子なので、仕事変わって欲しいという希望を叶えてあげただけです。
けして怒ってたりしたわけじゃないんだけど、いつも誤解されちゃう…みたいな、すごく自分設定ですごめんなさい。

リクエストありがとうございました。小太郎にはまたリベンジしたいです!
2style.net