サクラサク4月、私はめでたく私立バサラ学園高等部に入学することができた。
勉強より部活動重視、しかも特待生制度有り。
月並みの頭脳と月並みの生活水準で生きている私にはとっても有り難い学校。


入学式の帰り道、ささやかな入学パーティーをするため私と父はスーパーに寄って値引きした肉を大量に買い込んだ。
上機嫌で家路に着いた私たちは、自分たちのマンションを目の前にし、非現実ともとれるがどう見ても現実である光景を目の当たりに、
持っていたスーパー袋を漫画チックにも取り落としてしまった。




「「うぼぇぇえええ!!家が燃えとるぅぅぅううう!!!」」







どうやら家が燃えたようです







入学早々家が焼失するという最悪な学園生活をスタートするはめになった私。
警察の話によると、私のマンションの隣人がストーブを付けっぱなしで家を出たらしい。
4月なのにまだストーブ付けてたのかよ!と自分の家が燃えてしまっては突っ込む気も起きない。
しかもあのクソ親父は「家が燃える?アハハ何現実味の無いこと言ってるの?」と火災保険に入っていなかったらしい。現実味無いのはどっちだコラ。
これこそ本当の一文無し?
残ったのはこの身と無駄に高かった学校のセーラー服に入学証書、たくさん買い込んだ肉、携帯電話、小銭しか入ってない財布、それと馬鹿親。
もうこれは乞食になるしかない。そう私は考えていたのだが…。






現在私が目の前にしている家は何?


火事の起きたその日は父さんの仕事場のソファで眠るはめになり、
次の日の午前から学校休んで家探しを始めた。入学してこんなすぐ休む奴は私ぐらいだろう。
そして、午後になってようやく父が家を見つけたそう。
探すと言っても親父はずっとケータイと睨めっこしてたから、見つかった家に不安を感じざるを得ない。


そして、今その家に来たわけなんだけど。
超でかい。家の端から端が見れないほどデカイ。
立派な門構えに堅苦しさを覚える。

いや、まさか…


ちゃんー。此処だよ。入ろう」


まさか

私と同じくらいの背のチビっちゃい父親は無邪気な笑顔で、
今の私たちには無縁とも言える超豪邸に入り込もうとしている。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「何?」
「何?じゃないよ、何がどうなってこの家に用が出来たの!?まさか、泥棒とか…
「そんなわけないじゃん!今日から、ここに住むんだよ?」
「ハァ?おい、この薄らボケ親父。現実に戻ってこいよ」
ちゃんこそ、事情が飲み込めないのは良くわかるけどね。そうなったの!」
「どうなってそうなったんだよ!事情を説明して!」

凄む私に、父は面倒くさそうに話し始めた。
いや、そこは話して貰わないと困る。


「だからー火事があった後、ママに電話したんだよ。
 そしたらね。ここの人の家凄い部屋余ってるみたいだから貸してくれるんじゃない?って」
「凄くアバウトだな!なんだそりゃ。アポは取ったの?」
「ううん」
父さん大人としてなんかだめだよ!


まあ取りあえず、入ろーと言う父。その凄く軽いテンションは何処から来るんだ。
もう昔からこんなんだけど、未だに着いてけない。この人。


そういう事で、私はこの“武田”と表札に書かれた家に入ることになった。














「…と、いう事で、部屋を貸して欲しいんですよ」
「ほほう。それは大変ですな」


武田さんのお宅には、門と同じくらい堅物そうな家主が居た。
武田さんは父のあやふやな話を腕をこまねきながら四角張った顔で静かに聞いていた。
私は終始いつ怒鳴られて追い返されるか冷や冷やしながら正座で父と武田さんの顔を交互に見ていた。
正座がきついなんて言ってられない。
武田さんもすごい怖かったけど、こんな怖いおじさんに普段通り気軽な声で話しかける父も恐ろしい。
あとこういう時ぐらい正座して欲しい。畳だし。

一呼吸置くと、武田さんがにかっと太陽のような笑みを見せた。

「良いでしょう!部屋と言わず、わしの家で暮らしなされ!」
「本当ですか?」


うそーん


それはちょっと寛大すぎませんか。
今時の大人ってこんな感じなんですか?
思わず顔とのギャップにこけてしまいそうになったけど、なんとか持ち直した。


「何せ、困っている人を見捨てておけぬ達でな。はっはっはっは!」


はっはっはっはて!
なんでそんなにボランティア精神豊富なんだ…。
気づいたら家の中貧乏人だらけとかそんな事になること必至だ。

この答えは有り難い事だろうが、むしろ断ってくれた方がもっと気詰まりしない家に住めただろう。


「ところで、娘さんはおいくつですかな?」
「わ、私ですか?今年で16です。今春高校に入学しました」
「そうかそうか!ちょっと待っておれ!おーい幸村!」


武田のおじさんは、手を叩いて只でさえ大きな声をもっと張り上げた。
しばらくすると、誰かが走ってくる音が聞こえて勢いよくふすまが開いた。

お呼びでござるか!お館さまぁぁああ!
「これ!幸村っ。客人の前であるぞ!」
「こっこれは申し訳ありませぬっ」
「幸村よ、こちらへ来て座れ」
「は、お館さま!」


また声がでかいのが増えた。
勢いよくふすまを開け放ったのは、その風体からは紛れもない現代人で普通の男子学生に見えたが、
現代人として違和感のある雰囲気をまとっている気がする。

「こちらは、今日から此処に住むことになったさん親子じゃ幸村」
「これは!初めまして、某は真田幸村と申す。殿!」
「息子さんですか?よろしくお願いします!」
「は、初めまして…」


それがし?…どの…ありませn…………



「この幸村も殿と同じ、16じゃ」
「おお!そうであるのか!それでは宜しく頼みまする」
「あ…よ、よろしく…たのみまする」



頼み…マッスル?





「ちょっと、すみません!トイレ行っても良いですか」
「えーなんだちゃん間が悪いよ?」
「お父さんもついて来て!」

「厠ですかな?では案内を…」
「いえ!すみません、わかりますっ。すぐもどりますから」
「そうですか?」


私はすっかり足を崩してくつろいでいる父親の首根っこをつかんで廊下に出た。

「何?ちゃん、連れションだったら嫌だよ…」
違う!ねぇ!ここの家の人おかしいよ!」
「えー何が?」
「何がって!マッスルとか…ま、まあそれはいいとして、こんなに気軽にOKって怪しくない!?」
「でも、ママが紹介してくれた家だよ?大丈夫だって」
「“私の青春を取り戻しに行くのー!”とか言って家出てった母親の言うことなんか信じられますか!」


息切れしながら父に詰め寄るも、この男は意見を変える気にはならないだろう。
この長いものには巻かれろ主義もどうにかして…。
最後の希望を捨てずに私がまた父に怒鳴ってやろうと思った矢先、後ろから声がかかった。


「あれ?お客さん、もう帰るんですか?」

そこに立っていたのは、お茶とお菓子をお盆に乗せた男の人だった。

私はつかんでいた父の襟首をとっさに離して、笑顔を繕った。



(娘「あ、はい(父「いいえ!今から部屋に戻る所ですよ」
「そうでしたか。お茶持ってきたんで、くつろいでくださいねー」
(な…なに言ってんだよ、このチビオヤジ!)

突然現れたお手伝いさんらしき男の人に促されて、また部屋に戻ることになってしまった。


あああ…最悪だ…このタイミング…武田家最悪…



「お茶持ってきましたよ」
「おぉ!佐助、気が利くな」
「そりゃまぁ」

ち、ちくしょう!また戻ってきてしまった。
夢みたいな武田親子…。もう見たくなかった。もう逃げれない気がする。
私は心半泣きで座布団の上に座り直した。


「はい、お客様」
「どうもです…」

渡されたお茶もおいしそうに見えない。お団子もこんな時じゃなきゃ絶対千倍おいしいのに。

「わーい、お団子大好き!」

私の父が子供のようにお団子ごときではしゃぐ。
娘がこんなに憂鬱になってるというのに、もうこのノー天気親父コロシタイ…。


後編へ
2style.net